となりの猫村くん
若干顔を上げて隣を振り向こうとしたらズシッと頭に重たい何かが乗っかる。
「コレ、うちの部室の近くに落ちてた」
頭からずり落ちそうになるそれを両手で支えて気付いた。
頭上にあるのは紛れもなく私のリュックで、それを持った低い声の持ち主は……隣の席の猫村くん。
「ん?お前のじゃねェのか、コレ」
「え、あっ…わたしの、です」
「やっぱりな。つか……リュック置き忘れるか普通。」
ため息混じりにそう言った彼は気を付けろやと言って自分の席へ座ると、私のように頭を下げる。
私はリュックを机に下ろしそんな猫村くんを見た。
朝練があったからか、早くリュックを届けるために走って来たからかは分からないけど……
首筋に残る汗とクールだけど多少乱れている呼吸がそのどちらかを連想させる。
「ね、猫村くんっ」
気付いたら私は身を乗り出して猫村くんに話しかけていた。
「あの……、ありが…とう」
「…いいよ別に。席隣だし」
肘をついて顎を乗せる彼はこちらを振り向きながら言う。
見返りを考えず無表情に言うその姿は確かにわたしの苦手な男の子そのもの。
だけど、何だか猫村くんの様子はそんなものとはかけ離れた何かを感じた。
私はもう一度『猫村くん』と呼ぶ。
「お、おはようっ」
「…………………」
前方へ映るのは驚いた顔をする猫村くん。