ラピスラズリの恋人
瑠花はきっと、俺の言葉が自分に掛けられた物だとは思わなかったのだろう。


先に俺の存在に気付いた男の視線を無視して、彼女の顔を覗き込んだ。


初めて交わる、視線。


ずっと遠くから見つめているだけだった真っ直ぐな瞳に捕らえられた瞬間、全ての音が遮断されて時が止まった気がした。


短い沈黙を経て、ハッと我に返る。


悲しみを帯びた大きな瞳が、戸惑いに揺れている。


その視線に胸の奥がチクリと痛むのを感じながら、状況を把握出来ないままでいる瑠花に笑みを向けた。


これから酷い男によって彼女の心に刻まれるであろう傷が、ほんの少しだけでも浅くなる事を願って…。


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