ただひとつ。Side Story
「…あ。雨……。」
部活帰り……。
俺は薄暗い雨の中を…、傘もささずにひたすら走った。
雨脚が強くなると共に、わざとビチャビチャと足元で音をたてながら……
狭い路地を無心で突き進む。
頭上に光が射しては、その度にいちいち目を瞑って、先を急いだ。
「でもさあ………」
「うそ、そうなんだー……」
………。
途中…
同じ歳くらいの女の子が二人、肩を並べて歩いていた。
他校の制服…。
仕方なく、追い抜かそうと横に並んだ時だった。
「…こわい…。」
女の子の一人が、そう言って突然…
足を止めた。
「………?」
俺は思わず振り返った。
「……!」
ひとり空を見上げ…
呆然と立ち尽くすその姿に…
俺の記憶の片隅で眠っていた、あの子の笑顔を思い出す。