恋に恋して恋をする。
「小島さんも今帰り?」


奏くんはトントンとスニーカーのつま先を鳴らしながら聞いてきた。


何事もない口調が悔しくて、返事をせずに黙った。


奏くんもそれに気づいて急に神妙な顔で言った。


「ごめん。やっぱ俺と口聞きたくなんかないよね」


―――え?


「ひどいことばっか言ってごめんね。もう話しかけたりしないから」


奏くんは背中を向けたままそう言って立ち去ろうとした。


違うよ!


ちょっと待って!


心の中ではすぐに叫べたのに、喉に何かがつっかえて声にならない。


でもこのまま奏くんと話したり、目もあったりしないなんて、そんなの――


そんなのイヤだ―――



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