恋に恋して恋をする。
「でも、まぁ確かに気をつけないとね。昔、注意されたことあるし」


「何て?」


「『シュウくんは優しいけど、誰にでも優しいのは女の子に失礼だ』って」


“シュウくん”か。


「……元カノに言われたの?」


「いや。……中学ん時の家庭教師」


「か、家庭教師って、やっぱボンボンじゃん」


私は大真面目に驚いたのに、奏くんはケラケラと笑った。


「家庭教師ってもそんな大したもんじゃないよ。兄貴の知り合いに勉強みてもらっただけ。
俺が兄貴に勉強教わるの嫌だったから」


「お兄さん嫌いなの?」


「全然。優しいし、俺には甘いしね。勉強も運動もできて、完璧な兄貴だよ」


奏くんは笑いながら言ったけど、目は笑ってないような気がした。


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