騙し、騙され、愛の渦
実家に着くと、お茶をして、心が少しは和らいだ。


鳴らない携帯を眺めては、溜め息ばかり。


「こんなに大きなぬいぐるみ、どこに隠しましょ。きっと 喜ぶよ。」


お嫁さんはニコニコしながら、持ち上げた。


実家には兄とお嫁さん、両親、そして二歳の可愛い姪っこ がいる。


姪っこはウサギが大好きで、大きいウサギのぬいぐるみを 欲しがっていた。


もうすぐクリスマスだから、私からのプレゼント。


―――そう、実は大きなボストンバッグの中身はウサギのぬ いぐるみ。


服は着替え程度しか持ってきてはいない。


姪っこが居てもごまかせるように、いつでも運べるように ボストンバッグに入れて置いたの。


ねぇ、翔太…


まだ電話をくれないの?


電話くれないのなら、本当にさよならするからね。 早く焦って電話して来てよね、ねぇ?


ボストンバッグのチャックを閉めようとしたら、奥底に何 かあった。


リボンのかけられた小さな箱。


“美和へ”


―――私の名前が書かれていた。

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