ノータイトルストーリー
第3章『見つめる瞳』
体がユラユラと揺れている。正確には、妻が私を起こそうとしているようだ。
もう少し瞼の裏の星空を眺めていたいが、目を開けよう。
目を開くと当然そこに妻がいた。何か言いたげな少し不機嫌な顔をしている(苦笑)
「何度も起こしたのよ~!せっかくできたてを食べさせてあげたかったのにぃ」
「ごめん、ごめん…少し疲れが溜まってたみたいで…」
目の前のテーブルには、私の好物のアジフライにラップが掛けられ置かれていた。私の分と妻の分…
「食べずに待ってたのか?」と聞くと…
「せっかくだから揚げたてを一緒に食べようとおもってたのにぃ」とムクれっ面でそう言うと、次の瞬間にはパァっと表情が晴れた。
「じゃあ、チンしてくるわね?」
「あぁ悪るかったな…頼むよ」
皿を持って、相変わらずスリッパをパタパタいわせて、台所に向かう。
その後ろ姿をジッと目で追っていた。
「どうしたら、あんなにパタパタ音が出せるんだ?特技なのか?意識して出してるのか?実は、音を奏でる足を持って生まれた選ばれし人間では?」などと考えていた。
考えれば考えるほどに不思議だ…
その時、そんな私に頭の中にいる、冷静な私が「お前は、何を考えてるんだ?」
逆に叱られてしまった…その時、何故だか「クスッ」と笑えた。
長年、連れ添っても分からない事が在る事が『幸せ』と感じたのか、『何を馬鹿なことを』と思ったのかは分からないが、とにかく久々に心から小さいながらも笑った。
そんなことを考えているなど、知らない知るはずもない妻は台所の方から…
「ビール冷えてるから、たまには二人でどう?」
「そうだな!たまには良いな!」
「考えている事を見透かされているのでは?」と疑うくらい良いタイミングになんとも粋な計らいだ。
なんだか、新婚生活時代を思い出し、久々に胸がキュンとなった(笑)
ほどなく「チーン」とレンジが温まった事を告げると、木製の薄茶色の見るからに安っぽいお盆に、二皿のアジフライと小さめのコップ、それと少し汗をかいた茶色瓶と銀色の栓抜きが妻とともに戻ってきた。
「じゃあまずは…」と言いながらながら、瓶の王冠を「プシッ」と開け、妻のコップに瓶を傾ける。
「トプトプトプ…」と同時に「シュワシュワシュワァ」と音を立てて注がれ、コップは黄金色の液体と白い泡で満たされ、ツートンカラーに色付いた。
そして、徐々にコップの周りを白い露が覆っていく。
それを見ていたら無意識に喉が「ゴクリ」と反応した
「あなた、今日も1日。おつかれさま」と微笑むと、私のコップも同じ状態にしてくれた。
「それじゃ」と互いのコップを「チンっ」とあわせるとまず一口…
「うまいっ」とは口にすら出さずに一緒にゴクリと飲み込んだ。
次に妻お手製のアジフライ。私の皿には三尾、妻の皿には二尾のアジフライが横たわる。少し、しおれたキャベツの横に(笑)
それに私は、ウスターソースを「トプッ」とかけ、それを一口「サクッ」と歯切れの良い音を立て、私の口の中を旨味で満たした。
その時に私は心から妻に「うまいっ」と発した。
妻は嬉しそうな顔をしながら、「揚げたてはもっとおいしかったのよ~?」など皮肉っぽく言うと、同じくサクリと一口食べ、「うんっ」と頷いき、満足気な顔をした。
ノロケではないが、ほんとに見てて飽きない。年こそ取ったものの、やはり『女の子』なんだなと少し感心し、また感謝した。
うちの妻なら『さだまさし』さんでも文句は言うまい?
食べながら、「アジフライにはウスターソースだろ!?」
「あなた何、言ってるのよぁ、お醤油に決まってるじゃないの!?」などと下らない討論いや口論をした。
その時になって『おつかい』の意図を理解した(笑)。
残念ながら前言の『さだまさし』さんのくだりは撤回させて頂くことにした。と同時に謝る機会があれば、是非とも「ごめんなさい、私が間違ってました」と…
『僕』と『俺』は、次第により暗い方へと歩みを進めていた。未成年にして、たばこ、酒、女を覚えた。ここまではまだ誰しも経験があるし可愛げもある。
ガスライターに始まりシンナー、更には薬物にまで手を出した。薬物といっても、ハッパ(大麻)、LSD、エクスタシー、覚せい剤に至るまでありとあらゆるものに、手を染め、体を蝕んだ。
その頃になると、さすがに『僕』が間違っていると『俺』に言い始めたので『僕』と『俺』の間に『彼』という存在を置き、客観的に考えるように『俺』は『僕』を騙した。
『僕』は幼いせいか、それで納得し『彼』がする悪いことは自分とは、関係がないと思い込んだ。
『僕』は度々『俺』に『彼』のすることは悪いことはだよね(笑)と無邪気に話をする。
『俺』は、さも共感したかのように、「そうだね。悪いことをしているね」などと『僕』を騙した。
『彼』は『俺』のおかげで好き勝手に悪事を働いた。窃盗、傷害、暴行、薬物…
『俺』=『彼』であり、しかし、また=でもない。
『僕』=『彼』でもあるが、その事に『僕』は気付いていない。
『彼』という存在は、名ばかりで『俺』であり『僕』でもある。薬物のおかげですっかりと腐りきった脳には、その分別すら、不可能だ。
そんなことよりも、薬物を決めてする、セックスは最高だ。
そんじょそこらじゃ、味わえない快感だ。
まさにイクとは逝ってしまうほどの快感なのだ、その瞬間にこそ『生』を実感出来た。
女の方も同じだ、狂ったように喘ぎ声をあげ、幾度も果て、その波に溺れる。
キリスト教神学でいうところの七つの大罪というもの全てに『俺』は当てはまるのだろう。
『色欲』に溺れ、薬物に貪り『暴食』する。そして、働きもせず『怠惰』に暮らし、欲しいものには手段を選ばず『貪欲』で、それが叶わなけば『憤怒』し暴れる。自分にないものを持つ者に『嫉妬』し、自らの間違いを受け入れず『傲慢』にふるまい『彼』を作り上げた。
実際に『神』がいるのであれば、真っ先に断罪し裁かれるのであろうが、法によって、裁かれる事があっても『神』に裁かれることはないだろう。
そんなもの始めながら、存在しはしないし、現に世界中の貧困に苦しむ人々すら救えていないのだから。
幸福な世の中なら、こんな『僕』や『俺』や『彼』を生み出さなかっただろう…むしろ、幸福過ぎた事が問題だったのかも知れない。
何より『神』という存在自体が昔の人々の『妄想』『教訓』『金儲けのための手段』としてでっち上げられたものなんだろう。
所詮『人』も『獣』も対した差などなく『獣』に近ければ、手段を選ばず、シンプルな方法で、自分自身の欲求を満たそうとするだけの話だ。
『暴力で奪い取る』か『狡猾に騙し取る』であったりとだ。
そんな事を目の前に裸で横たわり虚ろな顔をしているバカ女に話したところで、理解出来るわけワケもないし『俺』にとっても『彼』にとってもどうでも良いことだ。
それに固執するのは『僕』くらいのもんだろう…
加えて言うなら、でっち上げ『僕』と『俺』との間に置かれた『彼』を作り上げた『俺』こそが、もしかしたら、七つの大罪を冒す『人』を作り上げた『神』そのものかも知れない。
しかし、実のところ『神』こそが『悪魔』達の総称なのかも知れないと溶けかけた脳そんな事を考えていると体が急にガタガタと震え出した。
しかたないので、腕をゴムで縛り、バシバシと叩き動脈を浮き上がらせる、そこへゆっくりと注射針が落ちていく…
瞳孔は開き、「ドッドッドッ…」と鼓動が速まる。破裂してしまうのではないかと思うほどにだ。
遂に針は皮膚を突き破り、血管を切り裂き、突き刺さった針の先端から、化学的に合成された禍々しいものが血管の中へ流れ込むんでいく。
縛り付けたゴムを外し、ソレが全身へ、または脳へと辿り着いた瞬間「パァっ」と頭が開くような、もしくは頭蓋骨の上半分ががなくなり、脳が解放されたような感覚になる。
そして、光が体の回りを駆け抜け包まれて行くようなそんな感覚が走る。それにうっとりと酔いしれる。
すると、「バタンッ!」と部屋の扉が大きな音を立て、弾ける様に開いたのだった…
それがゆっくりとスローモーションではないかと思うような感覚で女の隣に座り込んでいた。
「お前は誰だ…?」
現在は、晴彦は家を出て、一人暮らしをしている…
正確には、訳あって、二十三歳になった冬に、追い出したような形になった…
もう七年になるだろうか、きっと恨んでいるだろうなと思う。
しかし、親としての思いはいつか伝わると信じている。
基は、大学卒業とともに、会社に入り私と同じく『転勤族』の仲間入りを果たし、遠く青森へと家をあとにした。
恵美は『私も一人暮らしした~い』などというがいかんせん、まだ少し、世間知らずなところがあり、心配で一緒に暮らしている。
それに加えて「職場も通える範囲だし、無理にする必要はないだろう」と諭しながら…
そんな訳で今は妻と娘と三人で暮らしている。
妻と2人での晩酌を終えると私はベランダへ出て、たばこをくわえ、空を見上げて、火を付ける。
すると背後で「ガラッ」と戸の開く音がして妻が出てきた。
「どうした?」
「ん?別にどうもしないよ?」
「たまには、2人でベランダに出て、星空を見ようかなって思ったの」
「雨も上がって、お月様も星も見えるし」
「気まぐれな奴だな~お前ってほんとに」とからかうと「何よ~いいじゃない~?」と私に「ぽすッ」と寄りかかり、空を見ている。
「たばこ消すか?煙くないか?」
実のところ妻はたばこの煙が好きではない、苦手である。
「たまには、良いわ。許してあげる」と言うとこう続けた。
「昔、2人でよく星を見に行ったわね~」
「そうだな~」と返す。
かつて数十年前デートするときには、よく星を見に行ったものだ。
「あの頃からすると何だか星の数が減った気がしない?」
「そうだな~、昔は夜になれば街灯やらネオンなんて一晩中付けてなかったからな、光の弱い星は見えなくなるのかもな」と私は言う。
すると妻は、「そうよね~、今みたくビルやら高い建物もこんなになかったし、何だか空が狭く感じるわ、窮屈そうでなんだか可哀想…」と。
妻のこの感性や表現の仕方は私はとても好きだ。
なんだか、ふとした当たり前の事でも詩的に聞こえる。
そんなところに、平凡な私は惹かれたのかも知れない。
また、逆にそんな平凡さに妻も惹かれ今もこうして隣にいるのかも、知れない。
負けじと私も「願いをかける星の数も減ってしまうなぁ?」と。
妻は遠くを見つめながら「そうねぇ…」とすこし悲しそうに言った。
なんだか、余計な事を言ってしまったようで、ばつが悪く焦って話を変える。
「そういえば、会社の佐々木って覚えてるか?」
「あぁ、あのあなたが昔、育成で頭を抱えてた子でしょ?うちにも何度か連れてきて、2人でお酒を飲んでは、お説教されてた」
「お説教とは、失礼だな、あれは教育だ、愛のムチだっ」と少しムキになって言うと「それでその佐々木くんがどうしたの?」
「あっあぁ、あいつが今日、『デートだ』なんて言ったから、今の若いもんも星を見に行くのかな~。なんて思ってさ?」
「な~に言ってるの今の若い子達はそんな事しないわよ、夜景の見える、お洒落なレストランに行ったり、良いムードのバーに行ったりするのよ。分かったかね?お・じ・さ・ん(笑)」
「そっ、そ~ゆ~もんなのか?夜景なんてビルやらの人工的な灯りだろ?う~ん…分からんなぁ…」と言った。
そして、本当に何が良いのか理解できずに、考え込んでいると「まぁ実は私も何処がいいのかよく分からないんだけどね」と言うと、こう続けた。
「でも、私はあなたのそういうところ大好きだよ」と。
もう少し瞼の裏の星空を眺めていたいが、目を開けよう。
目を開くと当然そこに妻がいた。何か言いたげな少し不機嫌な顔をしている(苦笑)
「何度も起こしたのよ~!せっかくできたてを食べさせてあげたかったのにぃ」
「ごめん、ごめん…少し疲れが溜まってたみたいで…」
目の前のテーブルには、私の好物のアジフライにラップが掛けられ置かれていた。私の分と妻の分…
「食べずに待ってたのか?」と聞くと…
「せっかくだから揚げたてを一緒に食べようとおもってたのにぃ」とムクれっ面でそう言うと、次の瞬間にはパァっと表情が晴れた。
「じゃあ、チンしてくるわね?」
「あぁ悪るかったな…頼むよ」
皿を持って、相変わらずスリッパをパタパタいわせて、台所に向かう。
その後ろ姿をジッと目で追っていた。
「どうしたら、あんなにパタパタ音が出せるんだ?特技なのか?意識して出してるのか?実は、音を奏でる足を持って生まれた選ばれし人間では?」などと考えていた。
考えれば考えるほどに不思議だ…
その時、そんな私に頭の中にいる、冷静な私が「お前は、何を考えてるんだ?」
逆に叱られてしまった…その時、何故だか「クスッ」と笑えた。
長年、連れ添っても分からない事が在る事が『幸せ』と感じたのか、『何を馬鹿なことを』と思ったのかは分からないが、とにかく久々に心から小さいながらも笑った。
そんなことを考えているなど、知らない知るはずもない妻は台所の方から…
「ビール冷えてるから、たまには二人でどう?」
「そうだな!たまには良いな!」
「考えている事を見透かされているのでは?」と疑うくらい良いタイミングになんとも粋な計らいだ。
なんだか、新婚生活時代を思い出し、久々に胸がキュンとなった(笑)
ほどなく「チーン」とレンジが温まった事を告げると、木製の薄茶色の見るからに安っぽいお盆に、二皿のアジフライと小さめのコップ、それと少し汗をかいた茶色瓶と銀色の栓抜きが妻とともに戻ってきた。
「じゃあまずは…」と言いながらながら、瓶の王冠を「プシッ」と開け、妻のコップに瓶を傾ける。
「トプトプトプ…」と同時に「シュワシュワシュワァ」と音を立てて注がれ、コップは黄金色の液体と白い泡で満たされ、ツートンカラーに色付いた。
そして、徐々にコップの周りを白い露が覆っていく。
それを見ていたら無意識に喉が「ゴクリ」と反応した
「あなた、今日も1日。おつかれさま」と微笑むと、私のコップも同じ状態にしてくれた。
「それじゃ」と互いのコップを「チンっ」とあわせるとまず一口…
「うまいっ」とは口にすら出さずに一緒にゴクリと飲み込んだ。
次に妻お手製のアジフライ。私の皿には三尾、妻の皿には二尾のアジフライが横たわる。少し、しおれたキャベツの横に(笑)
それに私は、ウスターソースを「トプッ」とかけ、それを一口「サクッ」と歯切れの良い音を立て、私の口の中を旨味で満たした。
その時に私は心から妻に「うまいっ」と発した。
妻は嬉しそうな顔をしながら、「揚げたてはもっとおいしかったのよ~?」など皮肉っぽく言うと、同じくサクリと一口食べ、「うんっ」と頷いき、満足気な顔をした。
ノロケではないが、ほんとに見てて飽きない。年こそ取ったものの、やはり『女の子』なんだなと少し感心し、また感謝した。
うちの妻なら『さだまさし』さんでも文句は言うまい?
食べながら、「アジフライにはウスターソースだろ!?」
「あなた何、言ってるのよぁ、お醤油に決まってるじゃないの!?」などと下らない討論いや口論をした。
その時になって『おつかい』の意図を理解した(笑)。
残念ながら前言の『さだまさし』さんのくだりは撤回させて頂くことにした。と同時に謝る機会があれば、是非とも「ごめんなさい、私が間違ってました」と…
『僕』と『俺』は、次第により暗い方へと歩みを進めていた。未成年にして、たばこ、酒、女を覚えた。ここまではまだ誰しも経験があるし可愛げもある。
ガスライターに始まりシンナー、更には薬物にまで手を出した。薬物といっても、ハッパ(大麻)、LSD、エクスタシー、覚せい剤に至るまでありとあらゆるものに、手を染め、体を蝕んだ。
その頃になると、さすがに『僕』が間違っていると『俺』に言い始めたので『僕』と『俺』の間に『彼』という存在を置き、客観的に考えるように『俺』は『僕』を騙した。
『僕』は幼いせいか、それで納得し『彼』がする悪いことは自分とは、関係がないと思い込んだ。
『僕』は度々『俺』に『彼』のすることは悪いことはだよね(笑)と無邪気に話をする。
『俺』は、さも共感したかのように、「そうだね。悪いことをしているね」などと『僕』を騙した。
『彼』は『俺』のおかげで好き勝手に悪事を働いた。窃盗、傷害、暴行、薬物…
『俺』=『彼』であり、しかし、また=でもない。
『僕』=『彼』でもあるが、その事に『僕』は気付いていない。
『彼』という存在は、名ばかりで『俺』であり『僕』でもある。薬物のおかげですっかりと腐りきった脳には、その分別すら、不可能だ。
そんなことよりも、薬物を決めてする、セックスは最高だ。
そんじょそこらじゃ、味わえない快感だ。
まさにイクとは逝ってしまうほどの快感なのだ、その瞬間にこそ『生』を実感出来た。
女の方も同じだ、狂ったように喘ぎ声をあげ、幾度も果て、その波に溺れる。
キリスト教神学でいうところの七つの大罪というもの全てに『俺』は当てはまるのだろう。
『色欲』に溺れ、薬物に貪り『暴食』する。そして、働きもせず『怠惰』に暮らし、欲しいものには手段を選ばず『貪欲』で、それが叶わなけば『憤怒』し暴れる。自分にないものを持つ者に『嫉妬』し、自らの間違いを受け入れず『傲慢』にふるまい『彼』を作り上げた。
実際に『神』がいるのであれば、真っ先に断罪し裁かれるのであろうが、法によって、裁かれる事があっても『神』に裁かれることはないだろう。
そんなもの始めながら、存在しはしないし、現に世界中の貧困に苦しむ人々すら救えていないのだから。
幸福な世の中なら、こんな『僕』や『俺』や『彼』を生み出さなかっただろう…むしろ、幸福過ぎた事が問題だったのかも知れない。
何より『神』という存在自体が昔の人々の『妄想』『教訓』『金儲けのための手段』としてでっち上げられたものなんだろう。
所詮『人』も『獣』も対した差などなく『獣』に近ければ、手段を選ばず、シンプルな方法で、自分自身の欲求を満たそうとするだけの話だ。
『暴力で奪い取る』か『狡猾に騙し取る』であったりとだ。
そんな事を目の前に裸で横たわり虚ろな顔をしているバカ女に話したところで、理解出来るわけワケもないし『俺』にとっても『彼』にとってもどうでも良いことだ。
それに固執するのは『僕』くらいのもんだろう…
加えて言うなら、でっち上げ『僕』と『俺』との間に置かれた『彼』を作り上げた『俺』こそが、もしかしたら、七つの大罪を冒す『人』を作り上げた『神』そのものかも知れない。
しかし、実のところ『神』こそが『悪魔』達の総称なのかも知れないと溶けかけた脳そんな事を考えていると体が急にガタガタと震え出した。
しかたないので、腕をゴムで縛り、バシバシと叩き動脈を浮き上がらせる、そこへゆっくりと注射針が落ちていく…
瞳孔は開き、「ドッドッドッ…」と鼓動が速まる。破裂してしまうのではないかと思うほどにだ。
遂に針は皮膚を突き破り、血管を切り裂き、突き刺さった針の先端から、化学的に合成された禍々しいものが血管の中へ流れ込むんでいく。
縛り付けたゴムを外し、ソレが全身へ、または脳へと辿り着いた瞬間「パァっ」と頭が開くような、もしくは頭蓋骨の上半分ががなくなり、脳が解放されたような感覚になる。
そして、光が体の回りを駆け抜け包まれて行くようなそんな感覚が走る。それにうっとりと酔いしれる。
すると、「バタンッ!」と部屋の扉が大きな音を立て、弾ける様に開いたのだった…
それがゆっくりとスローモーションではないかと思うような感覚で女の隣に座り込んでいた。
「お前は誰だ…?」
現在は、晴彦は家を出て、一人暮らしをしている…
正確には、訳あって、二十三歳になった冬に、追い出したような形になった…
もう七年になるだろうか、きっと恨んでいるだろうなと思う。
しかし、親としての思いはいつか伝わると信じている。
基は、大学卒業とともに、会社に入り私と同じく『転勤族』の仲間入りを果たし、遠く青森へと家をあとにした。
恵美は『私も一人暮らしした~い』などというがいかんせん、まだ少し、世間知らずなところがあり、心配で一緒に暮らしている。
それに加えて「職場も通える範囲だし、無理にする必要はないだろう」と諭しながら…
そんな訳で今は妻と娘と三人で暮らしている。
妻と2人での晩酌を終えると私はベランダへ出て、たばこをくわえ、空を見上げて、火を付ける。
すると背後で「ガラッ」と戸の開く音がして妻が出てきた。
「どうした?」
「ん?別にどうもしないよ?」
「たまには、2人でベランダに出て、星空を見ようかなって思ったの」
「雨も上がって、お月様も星も見えるし」
「気まぐれな奴だな~お前ってほんとに」とからかうと「何よ~いいじゃない~?」と私に「ぽすッ」と寄りかかり、空を見ている。
「たばこ消すか?煙くないか?」
実のところ妻はたばこの煙が好きではない、苦手である。
「たまには、良いわ。許してあげる」と言うとこう続けた。
「昔、2人でよく星を見に行ったわね~」
「そうだな~」と返す。
かつて数十年前デートするときには、よく星を見に行ったものだ。
「あの頃からすると何だか星の数が減った気がしない?」
「そうだな~、昔は夜になれば街灯やらネオンなんて一晩中付けてなかったからな、光の弱い星は見えなくなるのかもな」と私は言う。
すると妻は、「そうよね~、今みたくビルやら高い建物もこんなになかったし、何だか空が狭く感じるわ、窮屈そうでなんだか可哀想…」と。
妻のこの感性や表現の仕方は私はとても好きだ。
なんだか、ふとした当たり前の事でも詩的に聞こえる。
そんなところに、平凡な私は惹かれたのかも知れない。
また、逆にそんな平凡さに妻も惹かれ今もこうして隣にいるのかも、知れない。
負けじと私も「願いをかける星の数も減ってしまうなぁ?」と。
妻は遠くを見つめながら「そうねぇ…」とすこし悲しそうに言った。
なんだか、余計な事を言ってしまったようで、ばつが悪く焦って話を変える。
「そういえば、会社の佐々木って覚えてるか?」
「あぁ、あのあなたが昔、育成で頭を抱えてた子でしょ?うちにも何度か連れてきて、2人でお酒を飲んでは、お説教されてた」
「お説教とは、失礼だな、あれは教育だ、愛のムチだっ」と少しムキになって言うと「それでその佐々木くんがどうしたの?」
「あっあぁ、あいつが今日、『デートだ』なんて言ったから、今の若いもんも星を見に行くのかな~。なんて思ってさ?」
「な~に言ってるの今の若い子達はそんな事しないわよ、夜景の見える、お洒落なレストランに行ったり、良いムードのバーに行ったりするのよ。分かったかね?お・じ・さ・ん(笑)」
「そっ、そ~ゆ~もんなのか?夜景なんてビルやらの人工的な灯りだろ?う~ん…分からんなぁ…」と言った。
そして、本当に何が良いのか理解できずに、考え込んでいると「まぁ実は私も何処がいいのかよく分からないんだけどね」と言うと、こう続けた。
「でも、私はあなたのそういうところ大好きだよ」と。