ノータイトルストーリー
本来なら、夜景の見えるレストランで食事を済ませ、行き着けカウンターバーの小さな丸い椅子に座って、彼女の前にはカシスオレンジ。

俺は渋くズブロッカのロックをチビリチビリと飲んでいる予定だったのに…

どこで何を間違えたのやら…

さすがに三時間以上も待って連絡もないと心配になり、タクシーを拾い、彼女の家に向かってみようと考えた。

なかなかどうしてタクシーはつかまらない、ふと見上げて見ると、ビルとビルの間から月が見えた。

とても月が妖しげに綺麗だ。

今の気持ちと相まって、もしも、俺が狼なら間違いなく月に向かって「アォォォン」と叫ばずにはいられないほどに綺麗だった…


夜はどんどん更けていく。真っ暗闇の中を『船』に乗り進ませる者。

リスクを負っても構わない、自分自身が欲のために『船』を進めてしまうだろう物もいるだろう。

一刻も早く、誰かに先を越されまいと。

また、風の流れに逆らって進んでも行く。

『己』というなの『エンジン』に『欲望』という名『ガソリン』をタップリと詰め込んで、それを動力として進んでいるのだろう。

リスクを厭わず、誰(どの船)よりも早く。誰よりも遠くへ。誰よりも狡猾に。

誰よりも…誰よりも…

しかし、他の船員にとってはこれ以上の恐怖はないのだ。

先が全く見えないところを進む恐怖が分かるだろうか?

例えるならば、目隠しをした状態で、全速力で林を駆け抜け、片側三車線道路を横断するようなものだ。

一歩間違えば、即死だろう、運が良ければ病院のベッドの上で死ぬまで鼻から管を通され、生き残れるだろう。

ただ、それが本当に生きていると言えるのであればの話だが。

しかしながら、本人の意識がどうであれ、生き残りそのような状態であっても生きていて欲しいと願う人はいるだろう。

その場合は、あなたは生きるべきでその『役割』と『責任』を果たさなければならないのだ。

『リスク』には『対価』がつきまとう。良くも悪くもだ。

もしも、あなたの『船』が真っ暗闇を進まずには、居られないのなら、瞳を凝らし、空を見つめ微かな光を探して舵を取って欲しい。

また、本当に行き急ぐ必要があるのか?

誰(どの船)と競っているのか?

何を求めて『船』を進めているのか?

この長い長い旅は誰のものでもなく、あなたや私自身で舵を取り進む。

誰かと競うのも良いだろう。

誰かを出し抜くのも良いだろう。

どのような『航路』に舵を取り進め、どのような『終点』に辿り着くかは誰にも分からない。

『神』ではなく、『運』のみぞ知る。なのだろう…

この『旅』には、正解も不正解も突き詰めれば、善も悪すらない。

ネットに掛かった、『ボール』と同じで、どちからに『風』が吹くかで『航路』は変わる。

その『風』は、もしかすると『欲望』『感情』『選択』『理想』『思想』など旅人によって異なるだろう。

ただ私なら、月明かりの下満天の星空をを眺め、そこで碇を下ろし、揺れる甲板の上でゆっくりと煙をくゆらせながら、コーヒーを楽しみたい。

また、恥ずかしながら、私は、真っ暗闇には怯える夜もある。

しかし、暗闇の中、『明日』の『風』に思いを馳せて、少しワクワクもしながら…

矛盾しているって?

それこそが人間であり、この世の中を構成している全てではないか。

焦る事はない。真っ直ぐに前だけを見つめるのも良いだろう。

しかしながら、視線をズラして、色々な風景・色・人など周りを見渡すのも良いだろう。

または、あなた自身を見つめ直してみるのも良いだろう。

願わくば、あなたの見つめる瞳の先が暗雲立ち込める、鉛色の空や嵐や高波・暴風ではなく、空は晴れ渡り、波は揺籠のように穏やかに揺れ、時には清々しい風があなたの頬を撫でてくれることを。
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