ノータイトルストーリー
「んぁ?」と驚き振り返るとあの『ヘビ』いや『吉岡』から相談を持ち掛けられた。
話を聞けば、意外な事に仕事の話や彼特有の『毒』かと思いきや、家族の話についてであった。
吉岡は結婚したが数年で離婚していたのは覚えていた。
確か子供が1人、男の子だとうっすら記憶にある。
続けて聞いてみると、どうやらその息子に逢いたいのだが、逢うべきかから始まり、どうすれば捜せるのか?とか、迷惑だろうか?などを持ち掛けられた。
人間は大抵、人に相談する時点で答えは出ているが、踏み出せないが故に助言を求める。
要は背中を押して欲しいのだ。
また、相談される側も相手の気持ちを読み取り、答えは出さずにヒントを出してやる程度が好ましい。
一方的な言い方や断定的表現は返って話をややこしくし、踏み出すことを躊躇させてしまうからだ。
頭ではそう分かっていながらも、人間そう機械的に対応は出来ないものだ…
私はつい熱くなってしまい…
「お前が逢いたいのなら迷う事なんて何もない、良いか悪いかなんて後からついてくるだろ?」
「『後悔先に立たず?』んなもん犬にでも喰わせてやれ!」
「やる前から何が分かるんだ?」
「もし目の前に助かるか分からない息子がいて助けを求めていたらどうする?」
「そんなもん助けるに決まっているじゃないか!」と吉岡は言う。
「そうだろ?先の事なんて誰にも分からないし、結果は決められない。」
「でも、やるかやらないかは自分で決められる!」
「それだったら可能性に賭けてみれば良いじゃないか?要するにだ、逢ってみたら良い。」
「それでもし拒絶されたら?」
「何を弱気になってるんだよ?お前らしくもない」
「『俺』らしいって何だ?」
「そんなもん知るかっ!」無責任に言い放った。
「他の奴にでも聞いて、反応でも見てみろ」
それが一番分かりやすいだろうと思った。
「って話が逸れたな、まずは探して逢わないことにゃなんも変わらんぞ」
「例え、そこで拒絶されようが新しい関係を構築してくチャンスでもあるんだ」
「本当は分かってたんだ、ただ恥ずかしながら、その一歩を踏み出す勇気が持てなくて…」
「な~に言ってんだ、ヘビに足なんてないだろう…あっ…(やばっ笑)」
「はぁぁ…やっぱり、お前かぁ?」
「まぁ良いじゃないか!分かりやすいし的確だろ?」
我ながら件の『ヘビ』というネーミングには少し自信はあった
「あっはっはっ」と2人の笑い声が響く。
吉岡とこんな風に話したのは何年振りだろうか、久々に二人して笑った。
良い歳のオッサン2人っきりで薄暗いオフィスでだ…
傍目からみたらなんとも不気味に見えるだろうなどと、想像してみると更におかしくて笑った。
きっと、気が振れてしまったのだろうと思われるかも知れないな(笑)
その後に先ずは探偵やら興信所に出向いて調べて貰ったらどうかなどと具体的な話をした。
タウンページでもあれば良いのだろうがその場にはなかったので、その日は煮詰めるとこまではいかなかった。
しかし、彼の人間らしいとこが垣間見れてなんだが少し嬉しくなった。
「彼女に何かあったのは確かだ…」と不審に思いながら、暗い部屋の奥へと歩みを進める。
もしかしたら、何者かに襲われるのではないかと不安を感じ、背中を冷たいモノが伝う。
暗い部屋の中で何も見えない、深夜ということもあり何も聞こえない。
ただ微かに自分の心臓がいつもより早く「ドッドッドッ」と脈打つのが分かる。
しかし部屋の中を手探りで進む、何度も来たことは無かったが、電気のスイッチのある場所位はなんとなく覚えていた。
と言うよりも大体在るべき所は見当は付いた。
灯りを付けると真っ暗だった部屋が一瞬にして光に包まれる。
目がなれていないせいか真っ白くなり、チカチカとする。
そのチカチカが収まるとソファーに布団にくるまっている彼女を見つけた。
トイレの状況を見て、「急に具合でも悪くなって、部屋に戻ったのだろうか?」と思った。
心配だったのでこのまま傍観していても埒が開かないので、彼女の体を揺すり起こしてみる。
次の瞬間、耳をつんざくような声で彼女は悲鳴を上げた。
「キャャー」
まるで、ありがちなサスペンス映画のワンシーンを演じる俳優の気分になった。
彼女の体をつかみ、「おい!大丈夫か?」と訪ねる。
状況を飲み込むまでに少し間が開いた。
「…勇二くん…?」と彼女は目に涙を一杯に貯えて抱きついてきた。
悪い気はしなかった…
頼りにされているのだし、安心もしたようだからだ…
しかし「何があったの?」と聞いても黙ったままになり、口を開こうとはしない。
まるで何かに怯えているようにも見えた。
「心配しないで話してごらん?」
「……………………」
返事はなく、ただ俯いたまま、部屋を沈黙と静寂が包む…
そりゃそうだ、なんだかんだとしているうちに、東の空は明るくなり始めていた。
夜が明けようとしているのだから、この沈黙と静寂はこの世界のほぼ半分くらいを包んでいるのだろう。
仕方がないので、俯き沈黙を続ける彼女の横に座り、肩に手を掛け「グッ」と抱き寄せた、一緒に沈黙を続ける事にした。
彼女が話したくなるなるまで、待とうと決めた。
かの武将も詠んでいる通りだ…
置き換えるなら『話さぬなら話すまで待とう勇二くん』字余り…
そんな下らないことを考えている内に、夜の闇とともに意識も薄らいで行き、事もあろうに彼女と共に眠ってしまったようだ…
「ハッ」と目が醒めるとすでに8時を半分過ぎていた…
外はすっかりと明るくなり朝であった、雀か何かが「チュンチュン」と鳴いている…
「こりゃ間に合わないし長期戦になるな…」と隣で寝息をかいている彼女を横目にそう思った。
そうと決まれば、会社に電話を掛けて、今日は休みますと伝えねば…
もっともらしい理由もないのでトラブっているパターンで行こうと決め、ケータイを開き、電話を掛ける。
「トゥルルル…」
「はい、坂下製薬営業企画部ですが…」
電話に出たのは藤井さんだ、内心「ラッキー!」と思いながら、パターン『トラブル』で休みをお願いした。
まぁ、あとで解決したら話をしよう…と思いながら要件を伝え電話を切った、さも何かに追われているように…
さぁ、ここからが本番だ…彼女の分厚そうな氷の扉を溶かし開けるにはどうしたらいいものか?
この長い沈黙と硬直状態が続くのを考えると無性にたばこが恋しくなった…
『色の無い世界』を『死んだ心』で生きているととても虚しくなる。
感情まで徐々に死んでいき、何が喜びで、どう怒りを表現してよいか分からなくなり、哀しみなどとうに乗り越えた、楽しいこと?そんなものある訳がない。
そんな毎日の中で、ある人物に出会う。
『坂田』という男だ。
『坂田』はとても純粋で純粋が故に過ちも多い、しかし憎めない男だ。
まるで例えるならば、人に媚びる事も拒む事もしない犬のような奴だ。
失礼だが『坂田』を見ているとまるで『彼』を見ているようなそんな気分にさえなっていった。
坂田は同じクラスで奇遇な事に部活も同じでなんとなく連むようになっていった。
その頃からだろうか、僕の世界に『色』と『生』が戻り始めたのは…
そんな事もあり、僕は坂田を信頼し、心を許していった。
そして、あまり人には話したくない『家族』の話をした。
『彼』は自分の事のように悩んでくれた。
そして彼の出した結論は、ウチに泊まれば少しでも『負の感情』を出さずに済む、そうすれば自己嫌悪に陥らずに済むといった提案だった。
僕の中で『申し訳ない』という気持ちと『ありがたい』というなんとも複雑な気持ちになったが、お言葉に甘えることにした。
彼のウチは団地で家族4人で住んでいた。
そこへノコノコと週に一回くらいのペースで2、3日居候させて貰った。
まぁほとんど居候状態の僕を坂田の家族は皆快く迎えてくれた。
特に坂田のお母さんの作るお好み焼きは絶品だった。
親父さんは帰ってくると風呂に入り、晩酌を始める、高校生の僕らに「一緒にどうだ?」などと持ちかけ、ビールを少し頂く事もあった(笑)
妹さんは大人しく、うちの妹の2つ上になるらしく、話は意外と合っていたと勝手に思っている…
夜になると皆でテレビを見て、ナイターで熱くなったり、ドラマを見て、この俳優はどうだこうだなどと談笑したり、『家族』の在るべき姿のように思え羨ましく思ったと同時に自分の『家族』が少し心配になった。
時には2人で近所のコンビニで酒を買い込み部屋で飲み、ベロベロに酔って窓から粗相をすることもあったが、救われていると実感出来た。
新しい土地で初めて『友達』が出来た。
それは僕に取って素晴らしい事だった!
コンパスを片手に東の空を睨むと微かに明るくなっている。
その先には小さな島が見え灯りがチラチラと光っている。
くわえたばこで舵をそちらに向かってクルクルと切り、なんとか島に辿り着いた。
船員達の顔にも安堵の表情が浮かぶ。
私自身「ホッ」と胸をなで下ろした。
「見て見たまえ努力に結果は付いてくるのだ」
などと安っぽいセリフを吐きたくなるが、人間というものは、ピンチに陥って初めて努力をし始める。
「なんと愚かな…」とは、思うがこれが現実だ。
「備えあれば憂いなし」とは、よく言ったものだ。あれは備えをしなかった人間の言葉に違いない
何はともあれ、先ずは宿を探し灯りを求めて進みたい。
今日はぐっすりと眠れそうだ…
明日の朝にはまた船を修繕し出航したい。
どんな苦しい事があっても誰にも等しく朝は来る。
どんなに深い夜の闇でさえ、それを遮る事は出来ないのだ。
しかしながら、迎えた朝、その日がどのようになるかは自分自身次第なのだ。
素晴らしい日になるのか、最悪な日になるのかは分からない。
また、天候に至っては人の力ではどうにもならない。
好天に恵まれれば、外に出かけるも良し。
突然の雨に降られれば、傘を差し凌げば良い。
またその傘の下に誰かを招き入れる事も出来る。
そこでまた新たな喜びに出逢えるかも知れない。
全ての事柄には表と裏。光と影が存在するのだ。
光を求めると言うことは必然的に影を呼ぶ。
その影にあなた自身が飲み込まれてしまわない事を切に願う。
今日はこれ位にしておこう、それではまた明日。
話を聞けば、意外な事に仕事の話や彼特有の『毒』かと思いきや、家族の話についてであった。
吉岡は結婚したが数年で離婚していたのは覚えていた。
確か子供が1人、男の子だとうっすら記憶にある。
続けて聞いてみると、どうやらその息子に逢いたいのだが、逢うべきかから始まり、どうすれば捜せるのか?とか、迷惑だろうか?などを持ち掛けられた。
人間は大抵、人に相談する時点で答えは出ているが、踏み出せないが故に助言を求める。
要は背中を押して欲しいのだ。
また、相談される側も相手の気持ちを読み取り、答えは出さずにヒントを出してやる程度が好ましい。
一方的な言い方や断定的表現は返って話をややこしくし、踏み出すことを躊躇させてしまうからだ。
頭ではそう分かっていながらも、人間そう機械的に対応は出来ないものだ…
私はつい熱くなってしまい…
「お前が逢いたいのなら迷う事なんて何もない、良いか悪いかなんて後からついてくるだろ?」
「『後悔先に立たず?』んなもん犬にでも喰わせてやれ!」
「やる前から何が分かるんだ?」
「もし目の前に助かるか分からない息子がいて助けを求めていたらどうする?」
「そんなもん助けるに決まっているじゃないか!」と吉岡は言う。
「そうだろ?先の事なんて誰にも分からないし、結果は決められない。」
「でも、やるかやらないかは自分で決められる!」
「それだったら可能性に賭けてみれば良いじゃないか?要するにだ、逢ってみたら良い。」
「それでもし拒絶されたら?」
「何を弱気になってるんだよ?お前らしくもない」
「『俺』らしいって何だ?」
「そんなもん知るかっ!」無責任に言い放った。
「他の奴にでも聞いて、反応でも見てみろ」
それが一番分かりやすいだろうと思った。
「って話が逸れたな、まずは探して逢わないことにゃなんも変わらんぞ」
「例え、そこで拒絶されようが新しい関係を構築してくチャンスでもあるんだ」
「本当は分かってたんだ、ただ恥ずかしながら、その一歩を踏み出す勇気が持てなくて…」
「な~に言ってんだ、ヘビに足なんてないだろう…あっ…(やばっ笑)」
「はぁぁ…やっぱり、お前かぁ?」
「まぁ良いじゃないか!分かりやすいし的確だろ?」
我ながら件の『ヘビ』というネーミングには少し自信はあった
「あっはっはっ」と2人の笑い声が響く。
吉岡とこんな風に話したのは何年振りだろうか、久々に二人して笑った。
良い歳のオッサン2人っきりで薄暗いオフィスでだ…
傍目からみたらなんとも不気味に見えるだろうなどと、想像してみると更におかしくて笑った。
きっと、気が振れてしまったのだろうと思われるかも知れないな(笑)
その後に先ずは探偵やら興信所に出向いて調べて貰ったらどうかなどと具体的な話をした。
タウンページでもあれば良いのだろうがその場にはなかったので、その日は煮詰めるとこまではいかなかった。
しかし、彼の人間らしいとこが垣間見れてなんだが少し嬉しくなった。
「彼女に何かあったのは確かだ…」と不審に思いながら、暗い部屋の奥へと歩みを進める。
もしかしたら、何者かに襲われるのではないかと不安を感じ、背中を冷たいモノが伝う。
暗い部屋の中で何も見えない、深夜ということもあり何も聞こえない。
ただ微かに自分の心臓がいつもより早く「ドッドッドッ」と脈打つのが分かる。
しかし部屋の中を手探りで進む、何度も来たことは無かったが、電気のスイッチのある場所位はなんとなく覚えていた。
と言うよりも大体在るべき所は見当は付いた。
灯りを付けると真っ暗だった部屋が一瞬にして光に包まれる。
目がなれていないせいか真っ白くなり、チカチカとする。
そのチカチカが収まるとソファーに布団にくるまっている彼女を見つけた。
トイレの状況を見て、「急に具合でも悪くなって、部屋に戻ったのだろうか?」と思った。
心配だったのでこのまま傍観していても埒が開かないので、彼女の体を揺すり起こしてみる。
次の瞬間、耳をつんざくような声で彼女は悲鳴を上げた。
「キャャー」
まるで、ありがちなサスペンス映画のワンシーンを演じる俳優の気分になった。
彼女の体をつかみ、「おい!大丈夫か?」と訪ねる。
状況を飲み込むまでに少し間が開いた。
「…勇二くん…?」と彼女は目に涙を一杯に貯えて抱きついてきた。
悪い気はしなかった…
頼りにされているのだし、安心もしたようだからだ…
しかし「何があったの?」と聞いても黙ったままになり、口を開こうとはしない。
まるで何かに怯えているようにも見えた。
「心配しないで話してごらん?」
「……………………」
返事はなく、ただ俯いたまま、部屋を沈黙と静寂が包む…
そりゃそうだ、なんだかんだとしているうちに、東の空は明るくなり始めていた。
夜が明けようとしているのだから、この沈黙と静寂はこの世界のほぼ半分くらいを包んでいるのだろう。
仕方がないので、俯き沈黙を続ける彼女の横に座り、肩に手を掛け「グッ」と抱き寄せた、一緒に沈黙を続ける事にした。
彼女が話したくなるなるまで、待とうと決めた。
かの武将も詠んでいる通りだ…
置き換えるなら『話さぬなら話すまで待とう勇二くん』字余り…
そんな下らないことを考えている内に、夜の闇とともに意識も薄らいで行き、事もあろうに彼女と共に眠ってしまったようだ…
「ハッ」と目が醒めるとすでに8時を半分過ぎていた…
外はすっかりと明るくなり朝であった、雀か何かが「チュンチュン」と鳴いている…
「こりゃ間に合わないし長期戦になるな…」と隣で寝息をかいている彼女を横目にそう思った。
そうと決まれば、会社に電話を掛けて、今日は休みますと伝えねば…
もっともらしい理由もないのでトラブっているパターンで行こうと決め、ケータイを開き、電話を掛ける。
「トゥルルル…」
「はい、坂下製薬営業企画部ですが…」
電話に出たのは藤井さんだ、内心「ラッキー!」と思いながら、パターン『トラブル』で休みをお願いした。
まぁ、あとで解決したら話をしよう…と思いながら要件を伝え電話を切った、さも何かに追われているように…
さぁ、ここからが本番だ…彼女の分厚そうな氷の扉を溶かし開けるにはどうしたらいいものか?
この長い沈黙と硬直状態が続くのを考えると無性にたばこが恋しくなった…
『色の無い世界』を『死んだ心』で生きているととても虚しくなる。
感情まで徐々に死んでいき、何が喜びで、どう怒りを表現してよいか分からなくなり、哀しみなどとうに乗り越えた、楽しいこと?そんなものある訳がない。
そんな毎日の中で、ある人物に出会う。
『坂田』という男だ。
『坂田』はとても純粋で純粋が故に過ちも多い、しかし憎めない男だ。
まるで例えるならば、人に媚びる事も拒む事もしない犬のような奴だ。
失礼だが『坂田』を見ているとまるで『彼』を見ているようなそんな気分にさえなっていった。
坂田は同じクラスで奇遇な事に部活も同じでなんとなく連むようになっていった。
その頃からだろうか、僕の世界に『色』と『生』が戻り始めたのは…
そんな事もあり、僕は坂田を信頼し、心を許していった。
そして、あまり人には話したくない『家族』の話をした。
『彼』は自分の事のように悩んでくれた。
そして彼の出した結論は、ウチに泊まれば少しでも『負の感情』を出さずに済む、そうすれば自己嫌悪に陥らずに済むといった提案だった。
僕の中で『申し訳ない』という気持ちと『ありがたい』というなんとも複雑な気持ちになったが、お言葉に甘えることにした。
彼のウチは団地で家族4人で住んでいた。
そこへノコノコと週に一回くらいのペースで2、3日居候させて貰った。
まぁほとんど居候状態の僕を坂田の家族は皆快く迎えてくれた。
特に坂田のお母さんの作るお好み焼きは絶品だった。
親父さんは帰ってくると風呂に入り、晩酌を始める、高校生の僕らに「一緒にどうだ?」などと持ちかけ、ビールを少し頂く事もあった(笑)
妹さんは大人しく、うちの妹の2つ上になるらしく、話は意外と合っていたと勝手に思っている…
夜になると皆でテレビを見て、ナイターで熱くなったり、ドラマを見て、この俳優はどうだこうだなどと談笑したり、『家族』の在るべき姿のように思え羨ましく思ったと同時に自分の『家族』が少し心配になった。
時には2人で近所のコンビニで酒を買い込み部屋で飲み、ベロベロに酔って窓から粗相をすることもあったが、救われていると実感出来た。
新しい土地で初めて『友達』が出来た。
それは僕に取って素晴らしい事だった!
コンパスを片手に東の空を睨むと微かに明るくなっている。
その先には小さな島が見え灯りがチラチラと光っている。
くわえたばこで舵をそちらに向かってクルクルと切り、なんとか島に辿り着いた。
船員達の顔にも安堵の表情が浮かぶ。
私自身「ホッ」と胸をなで下ろした。
「見て見たまえ努力に結果は付いてくるのだ」
などと安っぽいセリフを吐きたくなるが、人間というものは、ピンチに陥って初めて努力をし始める。
「なんと愚かな…」とは、思うがこれが現実だ。
「備えあれば憂いなし」とは、よく言ったものだ。あれは備えをしなかった人間の言葉に違いない
何はともあれ、先ずは宿を探し灯りを求めて進みたい。
今日はぐっすりと眠れそうだ…
明日の朝にはまた船を修繕し出航したい。
どんな苦しい事があっても誰にも等しく朝は来る。
どんなに深い夜の闇でさえ、それを遮る事は出来ないのだ。
しかしながら、迎えた朝、その日がどのようになるかは自分自身次第なのだ。
素晴らしい日になるのか、最悪な日になるのかは分からない。
また、天候に至っては人の力ではどうにもならない。
好天に恵まれれば、外に出かけるも良し。
突然の雨に降られれば、傘を差し凌げば良い。
またその傘の下に誰かを招き入れる事も出来る。
そこでまた新たな喜びに出逢えるかも知れない。
全ての事柄には表と裏。光と影が存在するのだ。
光を求めると言うことは必然的に影を呼ぶ。
その影にあなた自身が飲み込まれてしまわない事を切に願う。
今日はこれ位にしておこう、それではまた明日。