Special Edition


「『そうだ』と言ったら?」

「えっ?」


黒目がちの大きな瞳に俺を写して。


「だから、そうだと言ったら?」

「………」


ゆのは俺を見据え、俺の着物をギュッと掴んだ。


そんな彼女の耳元にそっと囁く。


「ここじゃ、『家元』として振る舞わないとならないから、とりあえず、車に……な?」

「……はい」


袴姿の正装じゃ、どこに居たって注目の的。

それじゃなくても、ゆのは美人で可愛いし。

俺らが何かの余興の一幕のように、

周りに人々が集まり出した。


そんな事もあって、

俺は会場スタッフに了解を得て、

ゆのと共にフェスタ会場を後にした。




愛車に乗り込んだ俺ら。

何故か、ゆのは黙り込んだまま。


フェスタ会場付近は交通規制がされているものの、

専用パスを掲示して、軽やかに走らせる。



そして、花火会場へと続く車の波に逆らうように

俺は愛車を市街地へ走らせた。


< 178 / 477 >

この作品をシェア

pagetop