Special Edition


会話を終えた蘭は俺に軽く会釈して、厨房脇の通路を自宅へと歩いて行った。


「親父、蘭に何を吹き込んだんだよ」

「別に、何も吹き込んじゃいないよ」

「嘘だね」

「じゃあ、行って確かめて来たらいいだろ」

「…………チッ」


俺はオーブン作業用のグローブを机の上に置いて、


「リュウさん、すみませんっ!」

「ごゆっくり~」


2人の態度が俺を嗾けてるみたいで癪に障るが、蘭におかしな誤解をされるのはもっと困る。

今までの女遍歴を有る事無い事吹き込んで、俺が慌てふためくのを愉しんでいる2人。

まぁ、その殆どが事実でもあり、弁解の余地も無いから言い返す事も出来ないのだが。


『女に嫉妬させるくらいが丁度いい』なんて、馬鹿げた事を抜かしやがる親父。

自分の息子をいたぶって何が面白いんだか。


俺は彼女の後を追うように自宅通路用の階段を駆け上がった。



自宅のキッチンに着くと、彼女は鼻唄交じりに冷蔵庫を覗き込んでいた。

次々と冷蔵庫の中から食材を取り出し、キッチン台の上に並べてゆく。


キッチンの入口の壁に凭れ掛かり、そんな彼女を眺めていると。


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