青い星〜Blue Star〜
「ねぇ。」
「ひっ!」
女の子から逃げていたはずなのに彼女は目の前に現れた。
「逃げないでよ。とって食うわけじゃないからさ。」
「ただ…」と女の子は続けた。
「沖田奏さん。貴女の6年を頂戴。」
「は?」
女の子の言っていることが判らず奏は間抜けな声を上げた。
「貴女にやってほしいことがあるのよ。……私にはできなかったから。」
「できなかった?」
「うん。私は彼等を助けられなかった。誰にも気づかれなかった私を見つけてくれて優しく愛でてくれた彼等はもういない。………皆、死んでしまったの。」
「私に!」女の子は俯き涙を流しながら叫んだ。
「貴女のように彼等の戦力になれるような武術に長けていれば!貴女のように医学の知識があれば!貴女のように歴史を知っていれば!………彼等は死なずに済んだのに……。」
女の子は顔を上げた。
強い目をしていた。
「私は知っているわ。貴女が武術に長けていることも、日本史に詳しいことも、両親が共に医療関係者で貴女自身もアメリカの帰国子女でありわずか18歳で医師になった『神童』の異名を持っていることも。」
「何それ!初耳!」
「ちょっと、ゆき悪いけど黙って。話がややこしくなる。」
話に置いていかれていたゆきが女の子が発した信じられないワードに思わず奏にくってかかったが冷たくかわされ地面に「の」の字を書き始める。
あまりにもぞんざいな扱いに女の子もゆきに憐れみの視線を送るが「それで結局貴女は私にどうしてほしいの?」と奏に先を促され慌てて答える。
「彼等を助けて。私の代わりに。」
「その『彼等』って誰なの?」
「行けば判るわ。」
女の子はパンッと両手を胸の前で合わせた。
するとさっきまでただの地面だった場所に奈落。
漆黒の闇は底が見えず、背筋にぞっと悪寒が走る。
「さぁさ、この中に入って。」
「無茶言うな。」
奏は即答した。
全く道理である。
訳も判らない穴に入れと言われ「はい、判りました。」と入るわけがない。
「つべこべ言わずに入ってよ。往生際悪いなぁ。女は度胸よ。」
「誰だ、女は度胸とか言った奴。私が全力で異議申し立てよう。」
「まったく……こんなことはしたくなかったんだけど…仕方ない。強行手段よ。」
女の子の言葉に奏はさっと身構えた。
「あっ!!!!」
いきなり女の子が空を指差し大きな声を出した。
「へ?」
悲しいかな、人間故の性か。
奏は指差された方向を見た。
その瞬間、どんっと背中を思い切り押された。
バランスを崩し奏は穴に落ちる。
重力に従い落ちる、落ちる、落ちる。
お約束の手段に引っ掛かった自分を心の中で叱咤するも時既に遅し。
意識が飛ぶ前に最後に見たのは私に手を伸ばそうと必死な表情のゆきと腹立たしいくらいの満面の笑みの女の子だった。