青い星〜Blue Star〜
「なっ……!助けてあげたのになんて言い草ですか!?」
2人のうち些かあどけなさの残る長い漆黒の髪を一纏めに高い位置で結った青年が不満そうに言った。
長い睫毛、汚れを知らなそうな大きな目、すっと綺麗に通った鼻筋、この世のものと思えぬほど美しい。
ただ………、
あのやけに目立つ鼻栓は何だ?
優れた容姿だからこそ、鼻栓はかなり浮いて見えた。
ツッコミたい衝動を押さえ負けじと言い返す。
「言い草も何も!助けてくれたのには礼を言うが、ならば最後まで面倒を見てくれ!頭の真上で痴話喧嘩されちゃあ文句のひとつも言いたくなるわ!」
「図々しいにも程がありますね!せめて名乗ったらどうです!?」
青年の的確な指摘に奏はうっと詰まる。
彼が言ったことはもっともだ。
流石に今までの自分の言動は失礼すぎる。
ましてや、助けてくれた相手に。
奏は布団から出ると2人の前に正座し頭を下げた。
「先程までの無礼な態度、お許しください。助けてくださりありがとうございました。」
そこまでやると思っていなかったのか青年は面食らった様子で慌てて奏に頭を上げるよう促す。
「いえいえ。こちらこそ、ついさっきまで倒れていた方に言い過ぎました。すみません。」
「いえ!謝るのは私の方です!助けてくださったのに……礼儀を重んじるよう両親に教わってきたにも関わらず、その教えを破り、あのような態度を…。」
「私こそ、万人に平等な優しさと裁断をと師である近藤さんに学んできたにも関わらず、優しさの欠片もない態度を…。」
まさに売り言葉に買い言葉。
「いえ!私が悪いんです!」
「いや、拙者が!」
「私!」
「拙者!」
「私!」
「拙者!」
最早、頗るとうでも良い論題に嫌気が差してきたのは2人のうちのもう1人。
「うるせぇ!!」
まさに鶴の一声。
低くドスのきいた声に、しんと静まりかえる。
「おい、さっさと名を名乗れ。」
そう言われて奏は改めて姿勢を正し2人を見た。
ん?
よくよく見ると怒鳴った方の男に見覚えがある。
しかも、結構最近の話だ。
それにさっきは気が動転していて気づかなかったが2人とも袴を着て帯刀している。
1876年に廃刀令が発布されて、その後銃刀法が制定。
要するに平成の世において刀を所持するには特別な許可が必要で基本は禁止されているはすなのだが……
奏の頭の中であの不思議な少女の言葉が流れる。
『歴史を知っていれば彼らを救うことができたのに……』
もしや、私はタイムスリップしたのか?
一向に名乗らず、まじまじと自分達を見つめるおなごに怒鳴った方は何を勘違いしたのか…
「なんだ?俺たちの顔に何かついているか?それとも惚れたか?」
色気を放ちながら、くいっと奏の顎を持ち上げる男。
なんとまあ、随分な自信家だ。
おかげで思い出したがな。
最近見た歴史の本に載っていた有名な写真と髪型が違っていて、すぐには判らなかったが、この顔で女誑しの男なんて1人しかいない。
奏はふっ、と不敵に笑った。
「何が可笑しい?」
「いいえ、何も。土方歳三義豐さん。」
そう言うと同時に首にひやりと冷たいものが当たった。