青い星〜Blue Star〜
「さっき、あんな見事な大外刈を私に決めたのに間抜けですね。」
総司が話しているのは少女に騙され奈落に突き落とされたくだりだ。
仕返しか鼻で笑う彼に拳を握りしめた。
「煩い。そこには触れてくれるな。不覚だった。」
「それにしても……ぶふっ……年端もいかぬ少女に……ふふふっ……古い手に引っ掛かった挙げ句……」
「いい性格してんな、沖田さん。」
「お褒めいただき光栄です。」
皮肉も華麗にかわされ奏は地団駄を踏む。
「お前の話をまとめると、要はお前は今よりももっと先の時代から時渡りしたっていうことか。」
「信じてくれますか、鬼副長。」
「てめぇっ……!」
「やだな、褒め言葉ですよ。先の世では土方さんは鬼副長として有名なんです。厳しくも仲間思いの武士だとね。」
微笑みながら最上級の褒め言葉を投下した奏に土方は勢いよく顔を背けた。
照れているのか、わずかに耳が赤い。
「お前の話は信じ難い話だが、先の世から来たならば、その珍妙な身形も俺たちと僅かに違う言葉には合点がいく。言語も文化も時代によって多少なりとも変わっていくものだ。」
「では………!」
「しかし!!」
奏の期待は次の土方の言葉に断ち切られた。
「空から落ちてきたことからこの世の人間じゃねえことは判るが先の世から来たという物証がねぇ。その身形だって異国のものに似ている。それにさっきは言わなかったが、名字を名乗るなんて武士身分か余程高貴な方のどちらかだ。お前が良家のお嬢さんなら異国の代物くらい手に入れることは俺たちよりも容易いことだろう。」
土方の言い分はもっともだ。
土方歳三と沖田総司がいるということはここは幕末の京都。
幕末の江戸の可能性も考えたが『鬼副長』に反応した土方に京都だと確信したのだ。
幕末では名字を名乗る人間は武士身分か上流階級の者。
明治時代になり平民名字必称義務令が発布され、名字を名乗ることが義務化されるまで庶民は名字を名乗らなかった。