青い星〜Blue Star〜





「では、いきまーす。この黒い丸を見て笑ってくださいね。」





奏はそう言ってケータイのカメラ部分を総司と土方に向けた。


2人は奏から伝授されたピースをしながら言い付け通りカメラ目線で満面の笑みだ。



と、そこで何を思ったか奏はケータイを下ろした。


怪訝な顔をする2人に照れくさそうに笑う。





「貴方たちは私の時代でとても有名なんです。せっかく時渡りしたから、私も一緒に撮りたいなー…なんて。」



「なんだ、そんなことですか。どうぞ、どうぞ。でも、一体誰が撮るんですか?」



「私。」



「たった今、私たちと一緒にホトガラを撮ると言いましたよね?」


「だから自撮りだ。」





『じどり』という単語に総司と土方の頭がフル回転する。




じどり(地鶏)
①その土地産の鶏。
②古くから各地で飼われている鶏の在来種。

じどり(地取り)
①家を建てる前に、土地を区画すること。
②囲碁で広く地をとること。
③相撲で、各自が属する部屋でする稽古。
④紙製の造花。特に、葬儀に用いるもの。





「いや、何言ってんだ?お前。」


「何か他の言葉と間違えてやいませんか?」





本気で心配そうに聞いてくる2人に奏は若干複雑な心境を抱く。





「多分ね、いや絶対。貴方たちが知っている『じどり』と違うから。」





え、私たちが知っている『じどり』以外に何があるんですかと言いたげな2人に奏は返事を待たずシャッターボタンを押した。



パシャッという聞き慣れぬ音とフラッシュにビクッと肩をすくませる、いい年した男2人。





「はい。『自ら撮る』。即ち『自撮り』。」



「なるほど。」





奏はケータイを操作し、つい今しがた撮った写真を見せた。



平成っ子は流石に撮り慣れているが、お二方は驚いた表情で固まっている。


土方に至っては、鬼副長としての威厳も洋装写真の凛々しさもない。


世の中、何処を探してもこんなにシュールな写真はないだろう。



ましてや、かの有名な後の新撰組副長と一番隊組長とスリーショットなんて。



奏は無意識に微笑んでいた。





「何、笑っているんですか!?そんなみっともないホトガラ、今すぐ消してください!」



「嫌。後生大事にとっておくわ。そんで、忘れた頃にバラまく。」


「そんな殺生な!副長助勤の名が泣きますよ!!」



「私には関係ない。」





奏はニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。





「というわけで、私をここに置いてくれ。先の世から来た故、アテがないんだ。」



「馬鹿言うな。ここは狼の住み処。女人禁制だ。」





頭の固い土方に断られることは百も承知。


未来から来た証明などiPodでも出来たのに、わざわざカメラを選択した理由。


私が何も考えていないとでも思ったか。





「先の世の技術がこれだけと思ったか?」



「何だと?」



「確かに、この写真だけなら私も写っているから、仮にバラまかれても恥ずかしさは半減だ。『異人の女にいきなり撮られたんだ。異国の技術は進んでいるから。』なんて言えば、皆信じるでしょうね。」





でもね、と奏はケータイを操作した。


カチカチとミスマッチな音がやけに響く。




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