青い星〜Blue Star〜
その男、江戸っ子につき
***
奏は再び局長室にいた。
しかし、さっきと違って人が5人増えている。
狭い部屋が余計に狭く感じるのは恐らく気のせいでない。
狭くて悪いね、という近藤の気遣いにも奏は曖昧に笑って返した。
「正式に入隊になったが、特例だからな万一の為にも副長助勤を紹介しておく。皆、試衛館からの付き合いで信頼のおける人しかいないから安心なさい。」
「私に手を出す物好きはいませんよ。」
それが余計に心配なんだ!
からからと笑う奏に男たちの心が一つになる。
「しかし、そうおっしゃってくれるなら、それにこした事はないです。お心遣いありがとうございます。申し遅れましたが、私は沖田奏といいます。歳は十八。生まれは武州橘樹郡で流派は天然理心流でございます。」
「そう、それなんですよ!」
突然、大声を出して立ち上がった総司に奏はびくりと体をすくませる。
「貴女が天然理心流なんて初耳です!近藤さんやトシさん、私と同じではないですか!どうして教えてくれなかったのですか!?」
「訊かれなかったから。」
至極当たり前の返答に総司はがくりと頭を垂れた。
「まあまあ、総司、座りなさい。」
近藤に促され総司は渋々腰を下ろす。
「それから奏さんは知っている者もいるかもしれないが、空から落ちてきたんだ。聞くところによると約150年先の世から来たらしい。」
『150年!?』
今まで黙って話を聞いていた総司を除く副長助勤と近藤の隣に座っていた眼鏡をかけた男は流石にこれには驚いたようだ。
「俺も半信半疑だったが、決定的な証拠を見せられちまったからな。」
土方がガリガリと頭を掻きながら面倒くさそうに言う。
「空から落ちてきたというと総司の青紫色の鼻と関係あったりするのかい?」
優しそうな雰囲気を醸し出した、歳は40歳前後だろうか、男が尋ねた。
「そうなんですよ。彼女の私物が飼い主助けたにも関わらず牙を剥いて襲ってきたんです。」
大袈裟な身振り手振りで話す総司に、男たちはどっと笑う。
「じゃあ、先の世から来たなら俺のこと知っているか?」
ひいひいと笑いを堪えながら訊ねる男の着物はそういうファッションなのか着崩れていて、そこから見え隠れする腹には真一文字に大きな傷があった。