青い星〜Blue Star〜
「そういえば、まだ私、皆さんから自己紹介を受けてないんだが……」
「おぉっ!そうだったな。俺は近藤勇昌宜(まさよし)。ここの局長を勤めている。」
「よろしくお願い致します。」
奏は軽く頭を下げた。
些か声が堅いのは、やはり歴史に名を残す男を前にして緊張しているのだろう。
「あのっ……近藤さんにお願いがあるのですが……」
顔を赤らめ上目遣いの奏に男たちはごくりと喉を鳴らした。
「なんだい?」
近藤は咳払いをしながら平静を装う。
「拳が口に入るところ見たいのですが……」
『は……?』
予想の斜め上をいく奏のお願いに男たちの間抜けな声が綺麗にハモる。
「あぁ、お安い御用さ。」
複雑そうな顔で近藤は拳をその大きな口に入れた。
「きゃあ!」と乙女な歓声を上げる奏。
「かの有名な肥後国熊本藩初代藩主加藤清正と同じ妙技!かっこいい!」
妙技という言葉に傷つく近藤に気づいていないのか、わざとか、すごい、すごい、と連呼する奏に一部始終を傍観していた男たちは苦笑いする。
「次は俺だな。俺は土方歳三義豊(よしとよ)。副長を勤めている。」
「よろしくお願い致します。ところで土方さんに聞きたいことがあるのですが……」
あくまで申し訳なさそうに言う奏に無下にするわけにいかず、嫌な予感がしながらも土方は先を促す。
「土方さんが十一の時、奉公先の番頭さんに掘られかけて、殴ってクビになって、その足で一晩かけて日野にある実家に帰ったという話と、十七の時、これまた奉公先で女中と関係を持って懐妊させたという話は本当ですか?」
嫌な予感とは当たるものである。
この二つの件は土方歳三、二十九歳になった今でも恥ずかしい過去の箱に収まっている。
まさか、150年先の世まで伝わっているなんて思いもよらない。
思わず顔を両手で覆い天を仰いだ土方だが壬生浪士組が好きだという、このおなごがどんな顔で自分の返答を待っているか容易に想像がつき「本当だ……。」と蚊の鳴くような声で答えた。