青い星〜Blue Star〜
無邪気とは恐ろしいもので、奏も純粋な興味で質問しているのが余計にタチが悪い。
近藤、土方と撃沈させられ次は自分かと眼鏡をかけた男はビクビクしている。
「私は山南敬助藤原知信と申します。トシさんと同じく副長を勤めております。」
「あ!やっぱり山南さんでしたか!壬生浪士組で眼鏡をつけていたのは貴方だけと伝わっているので絶対そうだと思ってたんです!勤勉で博識だったと言われてますよ!土方さんは女誑しって言われてますけど。」
「おい!何で俺が二度も落とされなきゃならんのだ!不平だ!山南さんが不利になるような話はないのか!」
残念ながら、有名な某検索サイトにも幕末や新撰組に関する本にも山南敬助には土方が期待するような話は一切ない。
「無いんだな、これが。しかし、土方さんよ。副長である貴方が仲間を売るような発言をしていいのかい?三度目のフリーフォールを与えよう。」
英語は判らないはずなのに何となく意味が理解できてしまった男たちは土方に同情の視線を送る。
「梅の花、一輪咲いても、梅は梅。春の草、五色までは、覚えけり。鶯や、はたきの音も、ついやめる。三日月や、水の底照る、春の雨。」
顔を真っ青にする土方。
何のことだか判らないといった表情をする男たち。
「一体その頭の何処を通ってこんなまずい句が生まれるんでしょうねぇ、豊玉宗匠。」
青かった土方の顔色は憤怒の赤に変わっている。
「おやぁ、どうしました?土方さん。まるでリトマス試験紙のようですよ。」
リトマス試験紙とは何か判らない男たちにも、この場合あまり良い比喩でないのは明らかに判った。
土方は深呼吸した。
今、怒っては豊玉宗匠が自分だとバレてしまう。
被害は最小限に押さえたかった。
このあたりの判断が冷静であるところに、流石副長だなと思う。
言葉にすれば、それこそ、こんなところに副長らしさを感じるなとどつかれそうだが。
奏の投下した爆弾が漸く沈静化したところで総司が口を開いた。
「改めまして壬生浪士組副長助勤の沖田総司藤原房良(かねよし)でございます。以後お見知りおきを。年も近そうですので気軽に総司と呼んでください。」
と、ソツなく自己紹介するが内心は、自分の粗相が暴露されないか気が気でない。
ところが奏は何を思ったが総司に抱きついた。