青い星〜Blue Star〜
「わっ!いきなり、どうしたんですか!大外刈も左之さんみたいに吹っ飛ばされるのも私は御免ですよ!」
慌てて引き剥がそうとした総司だが、がっちりと首に回された腕は外れそうもない。
仕方なしに諦めた総司だったが奏の様子がおかしいことに気がついた。
「奏さん?」
「…………」
「奏さーん。」
「………………」
「おーい、聞こえてますかー?」
「……………………」
「…………泣いているのですか?」
「……泣いてない。」
と言いつつも鼻を啜る音や自分の着物の右肩、ちょうど奏の目にあたる所が湿っぽい。
素直じゃないと思いつつも必死に意地をはる奏がとても可愛くて、総司はその小さな肩を抱き締めた。
よしよしと背中もさすってやる。
その甲斐あってか落ち着いてきた奏は口を開いた。
「すまんな。二度も貴方を困らすつもりは毛頭なかったが、何分こちらに来てから涙腺が緩みっぱなしで。」
つまり泣いていたことを認めるんだな、と思ったが誰も口には出さない。
「私、さっきも言ったけど壬生浪士組大好きなんだよ。私の時代では貴方たちは歴史として学ぶんだけどさ。初めて貴方たちのことを知ったとき最初悪者かと思ったの。人斬り集団とか幕府の犬とか壬生狼(みぶろ)とか、あんまり良い別称を聞かないから。だからどんな奴等なんだろうって、軽い気持ちで貴方たちのこと調べ上げたの。そしたら、悪者なんてとんでもない。仲間の為に命をかけるような、誠を掲げて自分達の道を貫き続けるような馬鹿みたいに真っ直ぐな集団だって知って。」
心が洗われるようだった。
自分達の行動は決して無駄ではなかった。
確かに京(現在の京都府。当時の政局。)の民から蔑まれてばかりだった。
だが、こうして先の世から来たおなごが自分達を好きだと言ってくれる。
それだけで十分だった。
「皆好きなんだけど、中でも沖田さんは剣術を学ぶときに手本にしていて、いつか越えてやりたいと思って。馬鹿でしょう。何百年も前に死んだ人間にさ勝手に闘争心抱いて、逢いたくて、逢いたくて、どれだけ焦がれたことか……」
奏は総司から離れると土方に向き直った。
「私は罪な人間です。貴方たちにこうして会えただけでも充分幸せなのに、その上を求めています。ただ、貴方たちの生き様を見るだけなんて私には耐えきれません。私は貴方たちを助けたい。」
「お前の話が全く、見えないのだが。」
「では単刀直入に申します。壬生浪士組は今から6年後に亡くなります。ここにいる人たちの中で6年後生きているのは永倉新八さんだけです。」
ガタンッと何かが倒れるような音がした。
奏は自分が押し倒されたのだと気づく。
押し倒したのは鬼のような顔をした総司だった。