青い星〜Blue Star〜
***
ここは何処だ?
私は目の前に繰り広げられている光景に目を疑った。
刀と刀がぶつかり合い響く特有の甲高い音。
刀が人間を切り裂く生々しい音。
銃声。
怒号。
まるで戦国時代。
いや、古すぎるか。
江戸時代末期くらいか。
あまりにも現実味を帯びていたが自身を貫くはず銃弾が私をすり抜けていくことがかろうじて、それが夢であることを告げていた。
あ………………
今、1人の細身の武士の腹に銃弾が当たった。
どうやら彼は老兵をかばったらしい。
その武士は支えを失った操り人形のように重力にしたがって崩れた。
それに気づいた彼の仲間と思われる彼ほどではないがこれまた細身の武士が慌てた様子で駆け寄った。
私も彼が何故か他人に思えず彼らの方に向かって走った。
近くまで来て驚いた。
撃たれた彼の顔が私にそっくりだったからだ。
いや、そっくりなんてもんじゃない。
もう見慣れたその顔は私のコピーだ。
『奏!奏!しっかりしてください!!』
なんと名前まで同じか。
もっと驚いたことには遠目では判らなかったが先程まで男かと思っていたその武士の体は明らかに女のものだった。
一体何なんだ、この夢は。
自分の生き写しのような女武士。その上同名ときた。
彼女は苦しそうに呻きながらも駆け寄ってきた仲間の武士に心配させまいと笑った。
しかしそれはあまりに痛々しく、全く止まる気配のない血は彼女の命の灯火を消そうとしていた。
自分の体は自分が一番よく判る。
彼女自身、自分の命の終わりを悟っていたのだろう。
私から見てもあれはもう医者も間に合わない。
血を流しすぎている。
気がつくと彼女の周りにはたくさんの人が集まっていた。
彼女の仲間か。
余程信頼されていたらしい。
皆、涙を流していた。
彼女の口がわずかに動く。
もう喋ることも苦痛なのか蚊が鳴くような小さく掠れた声だった。
『泣くな、笑えよ……これからはお前たちの時代だろう。』
彼女の瞳から一筋の涙が流れた。
『私はずっと問うていた。私がしたことは正しかったのか、否か……自分の理想を押し付けてただお前たちの足枷になっていたのではないかと。私はその答えをずっと探していた………』
『足枷なんてそんなわけないでしょう!!』
『最期の言葉くらい黙って聞いてくれよ……全部過去形だ。今はそんなことは思っていない…だってほら、こんなにたくさんの人に信頼されて……私は幸せだ…幸せに逝くんだ…もしくは帰るのかな?判らないな…死んだことなどないからな…』
当たり前かと彼女は可笑しそうに笑う。
はて?
帰るとはどういうことなのだ?
そんな私の疑問を余所に彼女の言葉は続く。
『あぁ……幸せだぁ…充分すぎるほど。唯一の心残りはお前たちを最後まで見れないことだ。だが、それが歴史を変えた罰だと言うならば甘んじて受けよう。』
これから死ぬというのに、なんて幸せそうに笑うのだろう。
『総司……貴方は私など忘れて幸せになりなさい。私がそうであるように。可愛い娘さんと結婚して幸せな家庭を築いて。』
『何を言っているのですか!』
そう怒鳴ったのは最初に彼女に駆け寄ってきたあの武士だ。
なるほど、総司というのか。
『私に貴女と過ごしてきた大切な思い出すら忘れろと言うのですか!?私は貴女を愛しているのに…!!その気持ちを持つことすら許されないのですか!?』
彼の言葉に『かっこつけるつもりでいたのに。』と初めて彼女の笑顔が崩れた。
『……訂正するよ。幸せになって。可愛い娘さんと結婚して幸せな家庭を築いて。でも年に一度でもいい。私を思い出して。私だけを想って。』
『願わくは来世で再び貴方に出逢わんことを。未来でまた会おう。』
戦場を冷ますような一陣の風と共に彼女の呼吸が止まり、もう彼女が動くことはなかった。