青い星〜Blue Star〜
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夕方-
今、奏は目立つからという理由でスーツを没収せられ総司のお古を借り着流し(袴や羽織を着けない男性の略装)であった。
(女ではあるが壬生浪士組の隊士である限り、おなごの服装は風紀を乱しかねないと男装が義務づけられたのだ。)
長い廊下を例の大男に連れられ何処かに向かっている。
自己紹介が終わった後、奏は今日はもう休んでいろと近藤の厚意で総司に叩き起こされるまでずっと寝ていた。
そして、この男もこの男で起き抜けの寝惚け眼の奏に容赦なく、むんずと腕を掴むとそのまま連行されている次第である。
「総司、一体何処に向かっているんだ?」
「うるせぇ、黙って俺についてこい。」
平成の少女漫画ならキュンとしそうな台詞にも状況が状況なだけに全くときめかない。
なんて言いつつ、新撰組マニアの奏にとって沖田総司の故郷言葉も実はときめきポイントだったりする。
あの拳と拳で分かち合い事件以来、奏には遠慮が要らないと悟ったのか決して敬語を使わない総司の無愛想ぶりとデリカシーのなさに苛立ちつつも、とても嬉しいと感じてしまう、きっと女性にしか判らない複雑な心境だ。
「着いたぞ。」
総司の呼び掛けに、はっとした。
ぼーっとしすぎたようだ。
どうやら大広間のようで、もう皆集合しているのか襖に幾人もの影が映る。
言わずもがな、電球も蛍光灯もLEDもないような時代である。
専ら灯りと言えば蝋燭や行灯。
しかし前者は高級品で上流階級の人間しか使わず、庶民は行灯で更に節約の為に早寝が当たり前である。
この時代の人からしたら普通だろうが平成の光を見慣れている奏にとって暗すぎる。
平成で百物語とかやるなら、このくらいの明るさかな、と思ってしまうのに江戸人と文化的にも技術的にも大きな隔たりを感じてしまう。
逆に150年で日本はここまで進化したのか。
総司が挨拶もなしにスパンッと襖を開いた。
あまりの遠慮のなさに戦く奏に対して、当の本人はどこ吹く風である。
中には広間をぐるりと膳が並べられていて奏と総司以外皆着席していた。
「いよっ!待ってました!本日の主役!!」
「姐さん!」
「我らが姐さん!!」
隊士たちの割れんばかりの拍手に混乱する奏。
「ほら、いつまでボケッとしてんな。」
いつの間にか奏の後ろに回った総司が未だ状況把握出来ていない奏の肩をぐいぐいとちょうど並んで空いている二つの膳の前まで押した。