青い星〜Blue Star〜





暫く総司の髪の感触を楽しんでいた奏だったが、はっと本来の目的を思い出したかのように遠慮なく総司の体を触り始めた。




「おい!いい加減にしろ!」




耐えかねて総司が奏を手加減しつつ押し返す。




「黙ってろ。」




睨みをきかせた奏の一言に総司は押し黙るしかなかった。


実は奏は素面であった。

先程の話も父親の酒を間違えて飲んだことがあるのは本当だったが、全く酔わなかった。

ちなみに、その酒はかなり度数が高かったりする。

奏の父親は酒に強く、奏自身もその血を色濃く受け継いだようだ。

だからと言って会ったばかりの男の体を無遠慮にまさぐるほど変わった性癖は持ち合わせていない。

目的はただ一つ。

純粋にただの健康診断だった。





沖田総司の死因は有名なのでご存知の方も多いであろう。

労咳、即ち今で言う肺結核である。

当時は不治の病と言われ恐れられていた。

結核の特効薬ことストレプトマイシンが発見されたのは1944年である。

それまではろくな治療法もなく安静にするしかなかった。

また、この時代にはウイルスや細菌の存在が知られていなかったことも被害を大きくした原因の一つで、これは肺結核に関わらず麻疹などの感染症にも当てはまる。

今日では他人にうつさないために患者を隔離したりするが、このような考え方自体が根本的になかったのだ。




肺結核というものは実は結核菌に感染しても必ずしも発症するわけでなく、むしろ発症する確率の方が低い。


では何故、沖田総司や高杉晋作はこの病に冒されたのか?

第一に考えられるのは免疫力の低下である。

結核菌は潜伏期間が長い。

免疫力とは案外繊細なものでストレスや睡眠不足、偏食、運動不足などで低下する。


これならば日本のために治安維持の為に奔走していた彼らが発症したことも納得がいく。


沖田総司については十九の時に麻疹にかかって免疫力が低下した際に結核菌に感染し、それがずっと潜伏していて発症したという説もある。



堅苦しい説明が長くなったが、要は総司は既に結核菌に感染している可能性があるということだ。

更に厄介なことに、この病は発症してからの自覚症状というものが殆どない。



彼らの悲しい歴史を変える上で沖田総司の結核による死はなんとしても回避しなければならなかった。




「まぁ、ある程度の抗生物質の合成の仕方は知っているが、物が少ない時代だ。どこまで薬を作れるか判らんから、まずアンタに病気に感染されたら困る。」



「は?」



「こちらの話だ。気にするな。」



此奴のことだ。


酔った振りをして、こうでもしないと素直に健康診断など応じるわけがないのは目に見えていた。



< 54 / 84 >

この作品をシェア

pagetop