青い星〜Blue Star〜
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「あんな言い方して絶対誤解されてる………恋仲ですらないのに、そういう関係だって思われたらどうしてくれる?」
奏は明日からの隊士たちの好奇の目を想像して頭を抱えた。
「しゃあねぇだろ。確実に人払いをできる理由がそれしか思いつかなかったんだから。」
「歩く性欲……」
「誰が歩く性欲だ!安心しろ!おめぇみたいな色気もクソもねぇ女に指一本触れやしねぇよ!」
売り言葉に買い言葉なのは判るが総司の言葉に軽く傷つく乙女な自分がいる。
「そんなに魅力ないか、私は。」
しおらしくなった奏に言い過ぎたかと総司は気まずそうに顔をそらす。
「見た目だけなら、その減らず口とは正反対だ。」
意味を汲み取った奏は一体この無愛想な男がどんな顔でこんな台詞を言うか気になって顔を上げた。
薄暗い部屋では判りにくかったが耳が真っ赤に染まっていた。
「総司はかっこいいよ。」
「からかうな、馬鹿。」
「からかいでこんな事言うか、馬鹿。」
ますます赤くなる総司が可愛くて仕方なかった。
「そんなことより、さっきの話の詳細を聞かせろ。」
「まあまあ、慌てない慌てない。」
奏は某とんち坊さんアニメのように寝転がった。
「せっかちというのは良くない。癌患者にせっかちが多いという話もあるんだ。」
「そうなのか。」
「いや、知らんけど。」
掴み所がなさすぎる奏に総司の肩の力が抜ける。
「そうそう、力抜いて。総司も寝転がりなよ。」
ポンポンと自分の横を叩く奏に総司は従順に従った。
「かてぇな。」
「そりゃ、畳に直だからね。」
「肩がこると隊務に支障が出る。」
「………布団敷くか?」
「恋仲でないのに?」
「言うと思った。」
したり顔の総司に呆れつつ奏は立ち上がると押し入れを開けて中から布団を取り出した。
「一組しかない。」
「それは俺も予想外だった。」
「でも、誰かさんがああいう理由で抜け出してきた手前、別に同じ布団で寝ることに不自然はないよな。」
今度は奏がしたり顔をする番だった。
「俺は男だぞ。抵抗はないのか?」
「犬と思えば問題ない。」
「犬かよ……」
犬呼ばわりされ落ち込む総司に対して奏は既に布団に入り込み話し合いの準備万端である。
そんな奏を見て何かを諦めたように総司は布団に入った。
「おぉっ…こう向かい合うと緊張するな。」
「これで何も感じねぇとか言われたら俺の男が廃る。」
「確かに。」
「おめぇ、俺だったからいいけど他の奴にこんな真似すんなよ。俺だって健全な男子なんだから今必死に理性が色々抑えてくれてんだ。トシさんとか左之とかもっと見境ねぇからな。」
「総司はやっぱり歩く性欲だな。あ、でも今は寝転がる性欲か。」
「俺の話、聞いてたか!?」
「あはははは!聞いてるよ。心配ありがとう。」
折角美人なのに。
ある意味残念すぎる奏に総司は溜め息をつく。
「幸せ逃げるよ。」
「誰のせいだと思ってやがる。」
「私か。」
「おめぇ以外に誰がいる。大体な、近藤さんの手前、ああ言ったが俺はまだおめぇを信じてないからな。先の世の人間の頭の中なんか判らねぇからな。」
「信じてないのはお互い様でしょう。だけど、私は貴方のこと大好きだし早く私を信じてほしいから、まず私が貴方のこと信じる。好きな人を信じられないのは悲しいしね。」
奏の告白に総司が目に見えて動揺する。
「俺の事を好いてるのか!?」
「うん、人としてね。壬生浪士組隊士の中で私は沖田総司が一番好きだった。でも、あくまでそれは紙の上の話。書物に記されている沖田総司はもう充分知ったから、本物をもっとよく知りたい。という意味だったけど何か勘違いしてない?」
「してない!それより話が逸れている!広間での話は!?」
そんな話もあったなと奏は大あくびする。
「あぁ、それね。アンタの死因の話だ。」
「何……?」
「アンタの死場所を教えてやろう。白刃の下でなく、まさに此所、畳の上だ。」
そして、一言。
「沖田総司。貴方の死因は不治の病、労咳だ。」