青い星〜Blue Star〜
「俺は死ぬのか?」
「あぁ、死ぬよ。今から6年後の慶応四年葉月の三十日だ。」
総司の顔が強張る。
当たり前か。
余命宣告されたのだから。
「で、どうする?このまま何もしなければ沖田総司は6年後に死ぬ。だが、私は医者だ。貴方を死なせる気は毛頭ない。150年で医療はめざましく進歩したよ。ちゃんと治療すれば労咳は完治する。あとは貴方の意思次第だ。」
目の前のおなごが言うことが信じられなかった。
労咳が治る?
俺は刀を壬生浪士組の為に振るい続けることが出来る?
「信じられないなら別にそれでもいいよ。貴方が勝手に自分の未来を潰すだけだし、私も私でそれが貴方の意思だと歴史通りに事が進むのを見守るだけ。正直に言えば貴方を好きだけど労咳で死のうが何だろうが150年後の人間の私にとっては頗るどうでもいいことだ。」
きっと優しい彼女のことだ。
死なせる気はないと最初に言ってるくせに、わざと辛辣な言葉を浴びせて自分だけが悪者になろうとしている。
俺に運命(さだめ)に打ち勝ちたいと言わせようとしている。
そう思うと彼女がとても可愛く見えた。
未だに疑っているくせに、そんなふうに思うなんて俺の頭も相当やられているようだ。
「敵が見えているのに斬らないのは士道不覚悟だ。」
ただ、やはり素直に物を言えない。
奏はそんな俺を見透かしているように微笑んでいた。
それが無性に腹が立ったので「おめぇだけを鬼にするほど俺は鬼じゃねぇ。」と言った。
奏は一瞬、鳩が豆鉄砲食ったような顔をしだが嬉しそうに此方に擦り寄ってくると総司をぎゅっと抱き締めた。。
「おいコラ、離せ。襲うぞ。」
「…………」
「おい、聞いてるか?」
「……………」
返事がない奏を不審に思って総司は顔を覗き見た。
「…………ふざけるな、寝落ちかよ……」
総司は今日何度目か判らない溜め息をついた。
まだ結ったままの髪紐を解いてやる。
「頼むから裏切るなよ。俺はおめぇを斬りたくない。」
総司の本音は夜に溶けていった。
そして自らも瞼を閉じた。
信じていないと口では言いつつも互いに強く抱き締め合っていた。
そんな二人の奇妙な夜を月だけが見ていた。