青い星〜Blue Star〜




「……世の中には段取りという言葉がある。何をやるにしても重要だ。それなのに総司ときたら1から4くらいまで飛ぶんだもの。2と3がいつも何処かに行く。」



「ちげぇねぇ。江戸っ子はせっかちなんだ。まどろこっしいのは御免だ。馬鹿だと思うから馬鹿だと言った。」



「……江戸の春画(今で言う高校生男子などがよくベッドの下に隠す本←若干の偏見あり。悪しからず。)は着衣プレイが多いと聞く。生粋の江戸っ子と言えばせっかち。脱ぐ暇も惜しいと言うことか。」




論点が大きく逸れているにも関わらず一人納得する奏。

対して総司は顔を烈火の如く染め上げた。

プレイなどという現代語が混じっていたが、意味を理解するには十分すぎた。


実は総司、大人の階段を上るどころか、一歩目、もとい初恋すらまだであった。


経験豊富な兄たち(言わずもがな、原田や土方である)に、何度か指南されたことはあったが、その術を使ったことは生まれてこの方二十年(※)、一度たりともなかった。


春画も一度だけ、例の兄たちに悪戯でーー見せられたと言った方が正しいだろうーー十五の時、面白いもの見せてやるからと、好奇心に逆らえず見れば、男女が淫らに絡み合っている絵であった。


微妙な年頃に不意打ちとは言え、そんなものを見せられた若き天才剣士は、これを機にめっきり女性が苦手になってしまった。


今でこそ、少し克服し普通に仲良くする分には構わないが、ちょっと押されたり、今の奏のようにブッ飛んだ発言をされると赤面してしまう。


これは総司にとって忌々しい弱点だった。




「おっ……!おっ……!お前っ!!公衆面前で何てことを!!!」


「あーー…、御免。悪気はない。」



「あってたまるか!!」




お気づきだろうが、色恋経験がないことは共通の二人だが何分生きる時代が違うため、価値観が異なる。


誰もがという訳ではないが、現代の若者は女性でもおおっびらに友人にこういう話をする人も少なくはない。

また奏が医者であったので、「子孫繁栄に欠かせない行為」と捉えていた。


だから口に出すことなど恥ずかしくともなんともなかった。




「しかし、存外アンタも初だったんだな。」




奏は意地悪くにやりと笑った。
無論、思わぬ弱点発見のためである。


総司は益々頬を染めた。

今度は照れでなく怒りだ。




「俺は普通だ!お前の方が変態なんだ!そんなこと恥ずかしげもなくベラベラと!」




ほう、と奏の笑顔が固まった。

目が笑っていない上、黒いオーラを放つ。

ぞくりと寒気がしたが総司は負けるわけにはいかないと奏を睨んだ。
武装(言い返しの羅列)し臨戦態勢で奏の次の言葉を待つ。




「では、貴方は貴方の母上に同じことが言えますかね。それがなかったら貴方は此処にいないのに、ただの厭らしい行為と片付けてしまうのは些か問題があるのでは?」




潜水艦大和、もとい総司は激戦地に着く前に敢えなく撃沈。

奏の正論に返す言葉もなく机に突っ伏した。




※沖田総司が生まれた年は1942年と1944年の二説がありますが後者をとっています。
数え年ですから沖田総司は1963年現在、20歳の設定です。
ヒーローは若い方がいいと思うのは私だけでしょうか?笑



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