青い星〜Blue Star〜
「お前を見ていれば、お前の故郷は頗る平和なのだと判る。刀を振る必要がないくらいに。」
「………………」
奏は総司に平成には武士がいないこと、刀の使用が禁止されていることを話したことがなかった。
今を必死に生きる彼らを気遣ってのことだったのだが。
天才剣士にはお見通しのようである。
「刀を振るっていうのは簡単じゃない。振れば必ず誰かが傷つき、或いは死に至る。それ相応の覚悟、血を浴びる覚悟がなければならない。」
奏は一を聞いて十を知るタイプだった。
平成にいた時はよく相談役として多くの友人に頼りにされていた。
それ故に、このときばかりは自分の飲み込みの良さを恨んだ。
目の前に座る無愛想な男の言わんとしている事が何となく判ってきてしまった。
「刀に慣れてねぇ奴を駆り出す程、壬生浪士組は落ちぶれちゃいねぇ。大方、俺たちを守るとか言ったせいで妙な使命感に駆られ、手前勝手に悩んだだけだろう。全く迷惑極まりない。」
総司にバッサリ切られ奏は目に見えて落ち込んだ。
今に始まったことではないし、仕方ないが、もう少しマシな言い方は出来ないのかと奏は切に思う。
「いいか。俺たちはこれから同じ釜の飯食う仲間なんだ。仲間が仲間を思うのは至極当然。お前にはお前なりの戦い方があるはずだ。なにも無理して刀を振ることが全てじゃねぇ。無理に刀を振ったところで早死にするだけだ。俺は優しくないから、安易に刀に逃げることは許さん。手前の居場所くらい手前で作れ。」
もう限界だった。
堰を切ったように涙が溢れ出す。
その優しく辛辣な言葉は下手に刀を振る必要はないと言われるより心に染みた。
総司は無言で嗚咽を堪える奏の頭を撫でていた。
机にあったお茶はすっかり冷めていたが、店の人は一人として新しいものと交換に来ることはなかった。
人情の江戸時代だけあって気が利いていた。