青い星〜Blue Star〜
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帰隊した奏は手土産の団子片手に屯所の廊下を歩いていた。
もう片方の手には盆にのせられた二つの湯呑み。
湯呑みからは入れたての良い香りがする。
総司の言葉のおかげで気持ちの踏ん切りがつき、心はすっきりと晴れ渡っていた。
無理して刀を振る必要はない。
私にしか出来ないことがある。
そして、彼らを守るのだ。
戦い方はもう決めてある。
これは、その第一歩だ。
「奏。そんなおっかねぇ顔してどうした?」
早歩きの奏を駆け足で追いかけながら総司が訊ねた。
「近藤さんと土方さんに話があるんだ。」
奏は更に歩くスピードを上げた。
「奏。」
総司がまた奏を呼んだ。
今度はご丁寧に肩に触れて。
全くなんなんだ。
奏は苛々しながら振り向いた。
「生憎、私は今アンタにかまってられるほど暇じゃないんだ。」
奏の突っかかるような物言いに総司は眉を寄せる。
「だったら尚更止まれ。」
「はぁ?」
総司が何を言いたいのか判らず奏の口調は益々剣呑になった。
そんな奏に総司はため息をついた。
「近藤先生たちの部屋は逆だ。」
「……………………先に言え。」
奏は総司から顔を背けながら今しがた通った道の逆を歩き出した。
「よもや、奏は方向音痴か?」
笑いを堪えながら言う総司に奏は咄嗟に反論出来なかった。
なにしろ平成で友人に幾度も言われたからだ。
高校生だった頃。
東京の学校に通っていたため神奈川県に住んでいたが遊ぶのは渋谷や新宿が多かった。
神奈川県川崎市宮前区に在住の方は理解できるかもしれないが、その辺に住んでいると態々東京方面に出るよりも溝の口やたまプラーザ、センター北に行く方が近い上交通費も浮くので学生に優しいのだ。
奏は人が多い場所も苦手だったので高校生になるまで渋谷や新宿に行ったことがなかった。
それ故か。
迷った。
おかしい。
待ち合わせで有名なハチ公前で高校の友人と会う約束をしたのに。
初めて行くから念入りに調べた。
田園都市線で溝の口からの大井町線。
大井町線で自由が丘からの東横線。
東横線からの渋谷。
そこまでは良かった。
しかし、だ。
東横線の出口からハチ公前にはどうやって行くのだ?
人は多いし、案内板もやたら多い。
そもそもハチ公前は何口だ?
大体出口を作りすぎなんだ。
何が何だかさっぱり判らん。
北口だが南口だが東口だが西口だが知らんが皆まとめて中央口でいいじゃないか。
まぁ、そうこうしているうちに迷った。
結局渋谷で警備員さんにハチ公の位置を訊ねるという大失態をおかした。
その時、漸く自覚したのだ。
あぁ、自分は方向音痴なのだ、と。