青い星〜Blue Star〜
「ちょっと一体何処まで行くんだ?」
流石に周りの視線が痛くなってきた。
いい年した女2人が手を繋ぎながら京都の規則正しい十字路を駆け抜けているのだ。
「もう少し!」
15分くらい前に尋ねたときも「もう少し」だったよなと奏は苦笑した。
「あれ?この道って……壬生村か?」
「ご名答!ほら、着いたよ!」
そう言ってゆきが指差したのは、
「壬生寺か…」
「この間、家族で壬生狂言見に行ったんよ。そん時にこっそり咲いている綺麗な花たちを見つけてね。」
ゆきはそう言いながら壬生寺には入り奥へ奥へと進んだ。
「なんかいいね…この空気。昔から変わらない感じ。約150年前にはかの有名な近藤勇が壬生狂言見たり、沖田総司が子供と遊んだりしていたんだよなぁ。」
饒舌になった奏にゆきは顔をしかめた。
「うん、判った。悪いことは言わないからそこでストップ。」
実は理系にも関わらず奏は大の日本史好きで、否日本史オタクであり、専門家顔負けの知識を持っている。
最初、それを知らなかったゆきはうっかり日本史の話題にしてしまい小一時間くらい奏につかまったのは軽いトラウマである。
「そんなことより前見て!」
好きな話題を『そんなこと』扱いされたことに反論しようと奏は顔を上げた。
「わぁ………!」
反論も引っ込むほど目の前に広がるのは鮮やかな青。
「ブルースターだよ!」
木々に囲まれながら太陽に照らされる青い花は風に揺れて、一層その美しさを見せつけるかのように堂々としている。
「ブルースター調べたら、4月から8月に咲く多年草らしくて、日本では自然に咲くものではないから誰かが種を植えたのだけど。住職さんに聞いても誰が植えたのか知らなくて……でも誰も知らないけど凛と咲いているのも素敵だと思って。花言葉は……『信じ合う心』。」
「風に揺れているのに何だろうね。むしろ『揺れている』んじゃなくて姿形も判らない風に存在を教えてあげているみたい。」
「さもありなん!」
日本史好きの自分の口調を真似するゆきに思わず吹き出した。