青い星〜Blue Star〜




「お茶も滴るいい男だな、総司。」




濡れ鼠よろしく、二人分のお茶を顔面に浴びた総司の髪からは雫が落ち畳を濡らす。




「今年、厄年なのか?お祓いに今度行くか……」




哀愁を帯びた総司に奏は口をつぐんだ。


確かに総司はここ数日、踏んだり蹴ったりな悪運が続いている。


鼻の内出血も治りかけの為、ひどい紫色であり、平手打ちされた頬もまだ腫れている。


いずれも総司の悪運には奏が関わっている。




「私が元凶だな。すまん、総司。」




軽い謝罪に総司は溜め息をついた。




「それより、そのお三方に会うというのはどういうことだ?」




総司の言葉に今まで放心していた近藤と土方が食いついた。




「そうだ!その三人は危険人物なんだぞ!!何かあってからでは遅いんだ!」



「お前も歴史を知っているなら判るだろ!その三人は俺たちの、幕府の敵だ!話す必要などない!」



固い。


奏は思った。


時代が時代なだけ仕方ないが考え方が固すぎる。


どうして同じ国の人間同士が争い血で血を洗うようなことをしなければならないのだろうか。


この時代の人間の考え方など判らないし理解する気もない。


あくまで私は平成に生まれ平成で育ってきた。


争わずして和解するのがモットーだ。


敵だ、味方だなど心底馬鹿らしいと思う。


敵、味方以前に私たちはこの日本に生まれ、自分達の故国を守るという根本的な考え方があるはずなのに手段が違うだけで互いを目の敵にしている。


元を正せば開国派も攘夷派も公武合体派も尊皇攘夷派も結局は同じ日本を守ることに他ならないと奏は考えていた。




「敵ではありませんよ。そろそろ、その敵、味方で物を判断するような古くさい考え方からおさらばしませんかね?」



「どういうことだ?」




総司が興味津々に聞き返す。

自分達よりも150年先の人間の考え方とはどんなものだろうという心の声が聞こえてきそうだ。




「敵、味方以前に私たちは同じ国に生まれ育ってきた同志です。開国派も開国することで外国の技術を取り入れ外国に負けないよう日本の技術向上に先駆ける、即ち日本を守る為。攘夷派も日本を守る為に外国との交易に反対している。公武合体派は日本を守る為により強い日本の組織連携を目指そうと朝廷と幕府をくっつけようとしている。尊皇攘夷派も故き良き時代の上様中心の世を目指し外国人を追い払う、つまり日本を守る為に。対立するこれらの考え方に共通するのは何だと思いますか?」



三人はこれでもかというくらい目を見開き互いに顔を見合わせている。




「日本を守る為。」




総司が噛み締めるように呟いた。

奏は微笑んだ。




「その通りだ。ほら、こう考えるとただ手段が違うだけで互いを理解しようともせずいがみ合っているのが馬鹿らしくなってこない?」




三人は何も言わない、否言えなかった。


奏は立ち上がり襖に手をかけた。



「少し混乱しているだろうから、もう一回私が言ったこと整理して皆で話し合ってみてよ。ちゃんと芹沢さんたちと一緒にね。取り敢えず私は今貴方たちにした話をお三方にも話しに行くから。もし、この期に及んであり得ないけど私の寝返りが心配なら総司も連れていくから。」




奏はそれだけ言うと部屋を出ていった。



話し合いの同行者に総司を無意識に選んで。





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