エナメルの楕円形
私達の他には誰もいない、ランチタイムの小さなオフィスフロアーに、ツン、としたマニキュア独特の匂いが漂う。
友里の細い指が動くリズムに合わせて、つるんとした私の楕円形が、キラキラのラメ混じりのピンク色に染まっていく。
「うふふ。ほうらね、やっぱり似合う」
そう言う友里の、透ける様に白い首筋には、細いピンクゴールドのチェーン。
私は右手の指先を友里に捕らわれたまま、そこから視線を動かさずに、
「……プレゼント?」
と何気なく、尋ねてみる。
「あっ、ネックレス? うふふ、そうなの。わかる?」
俯いたまま、長い睫毛を嬉しそうに揺らす。
……わかるよ。
だって今日の友里は、朝から機嫌がよかったもの。
仕事中だってパソコン画面の前で、そのチェーンを時々指先で弄んでいた。
「……優しい旦那さんだね」
私はそう、呟いてみる。
声が上擦らないように。
「えへへ。……亮ちゃんね、友里にはピンク色が一番似合うねって、いつも言うんだよ」
悪気のないのろけ話。
友里の一番得意な悪戯。
「……うん。私も、そう思う」
悪気のない笑顔と嘘。
私の一番得意な悪戯。