天使の舞―後編―
「楽しんで舞えばいいさ。」


キャスパトレイユは、いとも簡単にそう言ってのけたが、乃莉子にしてみたら『聞いてないよ~!』の極みである。


羽ばたきの舞は、これでもかというほど練習したのだが、もともと人前に出て目立つ事が苦手な乃莉子は、恥ずかしいやら、おこがましいやらで、いざ本番だと思うと、目眩がして立ちくらんでしまいそうであった。


そんな乃莉子を必死に支え、耳元で囁き励ますキャスパトレイユの凛々しい姿に、天使達は感嘆の声をあげている。


「まぁ、一時も離れたくないといったご様子ね。」


「仲がおよろしくて、羨ましいわ。」


天使達はまさか、乃莉子がそんな危機的状況にあるとはつゆ知らず、微笑ましく噂話に華を咲かせていた。


天使達の勘違いの噂話を余所に、刻一刻と迫る大舞台に、乃莉子の心臓は口から飛び出してしまいそうな程である。


乃莉子のどうにもならない足の震えは、最早本人の意志で止まるようなレベルではない。

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