天使の舞―後編―
あの日、珍しく騒がしい外が気になって、自室の窓からチラリと覗いて息を飲んだ。


瞬きするのも忘れる程に、イザヨイの瞳は、天界の王子の虜になったのだ。


一心に乃莉子という名を叫ぶ、白い翼の王子は、自信満々の不敵な笑みを浮かべ、誰が見てもピンチのこの状況にあって尚、自分が優勢であるかのように振る舞っていた。


そのなんとも潔い姿は、イザヨイの目に焼き付いた。


それ以来、何をやっても手に着かず、気がつけばイザヨイの頭の中は、キャスパトレイユでいっぱいになっている。


日増しに募る、会いたいという想い。


今やイザヨイの暴走は、誰にも止められるものではなかった。


天魔の鏡は、壁の向こう側に隔たれて隠されており、望む者であれば、王宮のどの壁からもすり抜けて、鏡の間に入る事ができる。


イザヨイは、近くに個室を見つけると、部屋の中の壁を通り抜けて、天魔の鏡の前に立った。


「キャスパトレイユ様。
今度はあたしを抱きしめて。」


イザヨイは、鏡へと足を滑らせた。
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