天使の舞―後編―

矢崎はわざとらしく、大きなため息をついて、両手をオーバーに広げて見せた。


「何だと！！」


「おっと！
配達の商品を、凶器に使わないでくれるかな。
警察に通報するよ。
さぁ帰った帰った。
ウチもこう見えて、忙しいんだからさ。
雑誌で殴りかかろうとするような奴の、相手をしている暇はないんだよ。
次の配達には、乃莉ちゃんを寄越してね。」


「来させるかっ！」


キャスパトレイユは、捨て台詞を残し、意地悪い顔で店内を見渡すと、鼻で笑ってから、カウンターに乱暴に雑誌を置いてヤザキを出て行った。


さもあろう、喫茶ヤザキの店内に、お客は誰一人居なかったのだから。


でも、そうでもなければ、こんな言い合い自体が、成り立つはずも、ないのだが。


キャスパトレイユは、不機嫌にメルヘンへと続く通りを歩いていた。


「何なんだ、アイツは！
まったく･･･油断できない男だな。
絶対、乃莉子を近づけちゃダメだ！」


ブツブツと、不貞腐れながら文句を言っていたキャスパトレイユは、自分の名を呼ばれた気がして、ふと足を止めた。


後ろを振り返り、また前を向き、キャスパトレイユは小首を傾げてから、もう一度後ろを振り返る。