カラス

「ぅわ!?うぅ!!た、助けてくれっ!」



瞬間、身を翻し走り出す男を、
厭らしい笑みを顔に貼り付けながら
追いかける。



「ぁあ!神様!!神様!!助けてくれっ」



馬鹿げた台詞に、なんだかイラッときた。



ちょっかいを掛けてきたのは君だろう?



僕の大切な時間を盗んだのは、君だろう?



…………決めた。
コイツとは、さよならだ。


スルッと男が落としたナイフを
拾い上げ投げる。



男が倒れた。



男からナイフを右手で引き抜き、
まだ息のある男を見下して、
深く被っていたシルクハットを左手に持つ。



「ねぇ。君、切り裂かれるのと、窒息死。
どちらかを選ばせてあげるよ。
あ、オマケに焼死もつけちゃおう♪
さぁ、どれがいい?」



男に影が落ちる。その影は深く、
男の瞳に写っているだろう。



「あ、あ、あぁ、グゥッ」



「それじゃ分からない。言葉が喋れないの?」



「あ、あ、あぁ、あ、あ、あぁ、」



「喋れなら、しょうがないね。
そうだなぁ、切り裂いてあげよう♪」



「あ!悪ま―――!!」



ゴト。



「誰が悪魔だよ。僕はカラス。
…一緒にしないでよね」



ボロ、ボロボロボロボロ



「ぅわ〜、お兄さん随分綺麗な薔薇を
咲かせるんだね♪」



惚れ惚れしながらうっとりと、
朱を眺めた。



其処には男、
いや人とは呼べない『モノ』が、
辺りに点々と転がっている。
< 53 / 67 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop