カラス
「ぅわ!?うぅ!!た、助けてくれっ!」
瞬間、身を翻し走り出す男を、
厭らしい笑みを顔に貼り付けながら
追いかける。
「ぁあ!神様!!神様!!助けてくれっ」
馬鹿げた台詞に、なんだかイラッときた。
ちょっかいを掛けてきたのは君だろう?
僕の大切な時間を盗んだのは、君だろう?
…………決めた。
コイツとは、さよならだ。
スルッと男が落としたナイフを
拾い上げ投げる。
男が倒れた。
男からナイフを右手で引き抜き、
まだ息のある男を見下して、
深く被っていたシルクハットを左手に持つ。
「ねぇ。君、切り裂かれるのと、窒息死。
どちらかを選ばせてあげるよ。
あ、オマケに焼死もつけちゃおう♪
さぁ、どれがいい?」
男に影が落ちる。その影は深く、
男の瞳に写っているだろう。
「あ、あ、あぁ、グゥッ」
「それじゃ分からない。言葉が喋れないの?」
「あ、あ、あぁ、あ、あ、あぁ、」
「喋れなら、しょうがないね。
そうだなぁ、切り裂いてあげよう♪」
「あ!悪ま―――!!」
ゴト。
「誰が悪魔だよ。僕はカラス。
…一緒にしないでよね」
ボロ、ボロボロボロボロ
「ぅわ〜、お兄さん随分綺麗な薔薇を
咲かせるんだね♪」
惚れ惚れしながらうっとりと、
朱を眺めた。
其処には男、
いや人とは呼べない『モノ』が、
辺りに点々と転がっている。