カラス
*
「今日は疲れたな…。明日も、
あの空気の中に居なきゃならないのか?」
夜、自室のベッドに
倒れ込みながら愚痴を溢した。
『和彦さんを養子で引き取るなんて、』
あぁ、もう家の中にいたくない。
仕事でもなんでもいいから、
家の柵から離れていたい。
そう思ってしまう俺は臆病者だろうか。
「やぁお兄さん。初めまして♪
今が嫌いみたいだね?」
「――っ!?!?」
いきなり正面に見知らぬ男が現れ、
俺は倒していた体を起こした。
立ち上がれば、彼は俺より背が低いようだ。
黒いシルクハットを被って、
まだ青年とは呼べないような
幼さを残している。
そんな子どもが何故こんな時間に、
ここいるんだ?
だいたい鍵は掛けていたはずなのに
「不思議そうな顔してるねぇ。
……でもごめんね。
理由を話してる時間は無いんだ。
今日は仕事が三件もあるから
ちょっと急いでるんだ」
仕事?…大人なのか?
だが、しゅんと落ち込む姿は、
年端もいかない子どもそのものだ。
「お前…、」
でも彼と話をしていると、
何故か今まで生きてきた中で、
一番の恐怖を俺は感じた。
第六感が騒いでいる。
『逃げろ』―――と。