カラス

*

「今日は疲れたな…。明日も、
あの空気の中に居なきゃならないのか?」



夜、自室のベッドに
倒れ込みながら愚痴を溢した。



『和彦さんを養子で引き取るなんて、』



あぁ、もう家の中にいたくない。


仕事でもなんでもいいから、
家の柵から離れていたい。


そう思ってしまう俺は臆病者だろうか。



「やぁお兄さん。初めまして♪
今が嫌いみたいだね?」


「――っ!?!?」



いきなり正面に見知らぬ男が現れ、
俺は倒していた体を起こした。



立ち上がれば、彼は俺より背が低いようだ。



黒いシルクハットを被って、
まだ青年とは呼べないような
幼さを残している。



そんな子どもが何故こんな時間に、
ここいるんだ?



だいたい鍵は掛けていたはずなのに



「不思議そうな顔してるねぇ。
……でもごめんね。
理由を話してる時間は無いんだ。
今日は仕事が三件もあるから
ちょっと急いでるんだ」



仕事?…大人なのか?


だが、しゅんと落ち込む姿は、
年端もいかない子どもそのものだ。



「お前…、」




でも彼と話をしていると、
何故か今まで生きてきた中で、
一番の恐怖を俺は感じた。




第六感が騒いでいる。




『逃げろ』―――と。




< 60 / 67 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop