黄昏の出会い
「参ったな……。」


近くにあった椅子に腰かけ、ため息つく。


氷室は壁に寄っかかって同じようにため息ついた。


せめてプライベートのケータイ忘れてなけりゃなぁ……。


寝坊した朝に反省して、またため息つく。


「………天瀬。」


不意に氷室に呼ばれ、氷室の方へ向き直す。


夕日の光が、氷室を淡く包んでいた。



「…その……服………。」

「へ?」


服?


「…鎖骨の部分、切れてる。」


………え゛!!?


慌てて胸元を見てみると……


「あ……。」


ブレザーの上着の鎖骨部分に……切れ目がついていた。



注意して見てみないと、本当に分からないような、小さな切れ目。



き、気づかなかった。



「…上着、少しいいか?」


「え?上着?」


よく分からないが、上着を脱いで氷室に渡した。


受け取った氷室は、カバンからソーイングセットを出した。


「え、氷室、裁縫出来るの?」


「少しだけな。」


言うな否や、氷室は針と糸を用意し終えていた。


そのまま、氷室は切れ目を縫っていく。


「……わ…………。」


思わず目が止まった。



だって流れる水のように縫っていくんだから。


程なくして、氷室は縫い終えて糸を切った。


小さいとは言え、本当に一瞬だった。



「簡単にだが、縫っておいた。」


そう言って上着を渡され、思わず切れ目跡を見た。



「……スゴい………。」


「え?」


「…私より綺麗に縫えてる……。

スゴい上手……!」


氷室は簡単だとか言ってたけど………


縫い目が本当に綺麗だ。


プロ並み?って思う位。



「ありがとう。
やっぱ氷室ってイイ奴!!」


嬉しくて笑顔で礼を言う。


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