僕のすべてを、丸ごとぜんぶ。
放課後、廊下を歩いていると、偶然宮藤さんのオトモダチの本田さんとすれ違った。本田さんは隣のクラスの子で、僕はなかなか接する機会がない。
本田里桜(ほんだりお)。
宮藤さんと仲が良いらしく、放課後やお昼休憩もよく行動を共にしているのを見る。小さくて小柄で、どちらかというと小動物を思わせる可愛らしい雰囲気の女の子だ。
…ゆきくん、とやらは、この子も宮藤さんも自分のものにしているなんて、本当にどういう神経をしているのか。ゆきくんのことを考えると、何故かもやもやしてしまう。
駄目だ、僕らしくない。いついかなる時も冷静かつおおらかに対応するのが僕のポリシーだ。
そんなことを考えていると、不意に本田さんと目が合う。
「こんにちは。」
ふにゃり、という擬音語がぴったりな笑顔を浮かべて、本田さんは僕を見る。
「こんにちは。」
僕も慌てて顔を作って挨拶する。
「転校生の霞沢くんだよね。噂通り王子様みたいー!」
にこにこ笑いながら話しかけてくる彼女に、女の子特有の媚びはない。きっと、〝ゆきくん〟という存在がいるからだ。
「本田さん、だよね。よろしくね。」
どんな人物であれ、繋がりを持っておいて損はない。そう判断した僕は、本田さんに手を差し出す。宮藤さんとは正反対のタイプだな。
「あ、そうだ、私すずなのこと探してたんだー。」
僕の手を握ったあと、はっとしたように本田さんは言う。
…本当に仲が良いんだな。
そう思うと、なおさら〝ゆきくん〟と関係を持つ宮藤さんの気がしれなかった。