僕のすべてを、丸ごとぜんぶ。
北校舎は、しんと静まり返っていた。
西日が差して、廊下全体が濃いオレンジ色に染まる。
妙に妖しい雰囲気を纏う校舎。
僕はなぜだか息を潜めて廊下を歩いた。
重そうな扉をそっと開ける。
その途端、僕は更に息を潜めてしまった。
「…っゆき、くん、」
熱の籠った、切なげな声が微かに響く。
…これはもしかして、イケナイ情事の最中なのだろうか。
そりゃあ僕だって色々する。
健全な、高校生男児だし。
だけど、いくらなんでも学校は…。
どこか冷静に、僕はこの状況にツッコミを入れていた。
「すずな…、」
男の声が、女の子の名前を呼ぶ。
男の方は、以外と冷静そうだ。
「…ごめんね、分かってる…。」
更に切なさを詰め込んだような、押し殺した声が答える。
待てよ、この声、どこかで聞いたことがある。
凛としていて、でもどこか冷たい響きをはらんだ声。
「ごめんなすずな…。」
男が、本当に申し訳なさそうに呟く。
「ううん、私が…、私がいけないんだよね。里桜に隠れてこんな…。」
…すずな。ゆきくん。りお。
女の子が二人に、男が一人。
…成る程ね。
そういうことか。
頭に様々な憶測を張り巡らせて、僕はひとつの結論にたどり着いた。