僕のすべてを、丸ごとぜんぶ。
「じゃあ、俺、行くね。」
「…ん、」
「…ごめんね、すずな。」
そんな会話のあと、重い扉がずしりと現実を突き付けるように、重い音をたてて閉まった。
「…っ、ふ、」
…そりゃ、そうだよな。
自分を置いて、他の女のもとに帰るのを見送ることがどれだけ辛いかなんて、男の僕でも容易に想像できる。
…ただ、人の不幸は蜜の味。
美しいものには棘がある。
仮面の下を、覗きたくなるのがひとの性(さが)でしょ…──?