これからは…
「あれを泣かせたら生涯黒崎病院が取引を持ちかけることはないでしょうね」

彼女を犠牲にしてまでなし得たいことなど何もない

では

小さく会釈して背を向ける海斗に

「黒崎病院は、私情で取引先を決めるのか」

宮本社長の声がかかる

もはや負け惜しみにしか聞こえないけれど

「彼女が隣に居てもこの病院の利益になることは、何もないはずだ。彼女はただの一従業員にしか」

「利益なら、あるじゃないですか」

振り返った海斗は、不敵な笑みを宿している

「少なくともあれが笑っていられない病院なんて存在意義すら怪しい。それにあれがそばにいないのならここを継ぐ意味なんてないんですよ」

しるふが大好きだと言ってくれるところが

しるふが医者であり続けられる場所が

ここであるのなら、それを存在させ続けるためなら

後をついでも良いと初めて思えたから

「それ以上の利益なんてないでしょう」

そう告げると海斗の背が医院長室を後にする

パタンー、と重いドアの閉まる音だけが響いた
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