これからは…
「黒崎先生」

振り返ったのちの沈黙

「10年後、楽しみにしててください」

「…ああ」

一瞬細まったその瞳に、少しだけ寂しさを覚えたのは、きっと気のせい

海斗が去ってしんと静まり返る医局

刻まれるのは、音のない時間

10年後

自分にだけ向けられる優しい瞳とともに

絶対に海斗を見上げて見せるんだ

今よりももっともっと自分に磨きをかけて

少しでも海斗に惜しいことをしたと思わせられるように

「なんて」

そんなことあるわけないか

きっと10年後もあの漆黒の瞳はたったひとりしか見つめていないんだろう

そのことが容易に想像できて、宮部は独りそっと笑った
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