結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】
葉月を認めた父に これまで何度もしまい込んだ思いを
ぶつけてみようと思った
今なら素直に聞けそうな気がした 父も話してくれるのではないか
そう思いながら また迷いが生じた
聞くのは今しかないと思っていたが 父を傷つけることなく話ができるのか
一抹の不安があった
けれど聞いてみたかった 父たちが拘る結婚の覚悟を
朋代さんとどうやって苦難を乗り越えることができたのかを……
僕は抱え続けてきた思いを父に向けた
「お父さん 聞きたいことがある
お父さんの覚悟ってどれほどのものだったのかな」
「私の覚悟か」
「お父さんが朋代さんと結婚するとき大変だったって聞いた
葉月の比じゃないくらいに……
おじいさんに反対され続けたって 反対されて当たり前の状況だったよね
お父さんにはすでに家族がいたんだから」
「賢吾 おまえ……いつ」
「ずっと前 おじいさんが亡くなった頃だったかな
疑問に思ったことがあったから 和音おばさんに聞いた」
僕は胸の奥につかえていた思いを一気に口にして 大きく息を吐いた
父は驚きを隠すことさえ出来ずにいるようだ
大きく目を見開いて僕を見て やがて崩れるように椅子に座り込んだ
手で顔を覆っていたが 髪をかき上げると深いため息をついた
「……私を軽蔑したんじゃないか」
「そんなことない 男として責任をとったじゃないか」
「朋代に対してはそうだが おまえを犠牲にした」
「犠牲にされたとか 不幸だったと思った事はないよ 別れなかったとしても
お母さんはお父さんと上手くいかなかったと思う」
「それにしても おまえの思いを何も知らずにきたとは……」
僕は長年閉じ込めていた疑問を 吐き出すように父に問いかけた
「お父さんを責めるつもりで聞くんじゃない それだけはわかって欲しい
その上で聞きたいんだ」
頷くと 父は何でも答えると約束してくれた
僕は思いのたけを並べていった
朋代さんへの思いを なぜ断ち切ることが出来なかったのか
どうして貫き通そうと思ったのか
なにがそうまでさせたのか
男として何を思ったのか
僕の問いに ふたたび深く頷き しばらく考え込んでいたが 引き出しから
一枚の写真を取り出して僕に見せた