結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】

 恋人



いつもなら実咲が作る朝食を待っているのだが 今朝はベッドから

早く抜け出しキッチンに向かった

当たり前のように冷蔵庫を開け 朝食になりそうな食材を選び出す

彼女のように上手くは作れないが 僕も料理は嫌いじゃない

今朝は ジャガイモを薄く切って 

ベーコンと焼いたハッシュドポテトがメイン

活動エネルギーを得るのに最適らしく 母が朝食向きのメニューだからと

教えてくれたことがあった

ジージーと美味しそうな音と香ばしく焼き色がつく頃 実咲はと見ると 

まだベッドに入ったまま 腕に顔を乗せ僕の方を見ていた



「美味しそうな音がしてきたから目が覚めちゃった ハッシュドポテト? 

ジャガイモを良く見つけたわね」


「ジャガイモは冷蔵庫に入れないだろうと思って 

キッチンの下を開けたらビンゴだった」


「さっすが そんなこと知ってる男の子 ウチのサークルでは賢吾ぐらいよ」


「もうすぐできる 顔を洗ってこいよ それともベッドに運ぼうか?」


「あはは……お姫様みたーい」



お姫様みたいだと笑いながらベッドから体を起こすと 実咲は自慢の髪を

無造作にかき上げた

僕が大好きな仕草だ


実咲に両親の離婚を打ち明けたことで 心が少しだけ軽くなっていた

両親が離婚しても 祖父母がいたこともあり 寂しいと感じたことはなかった

父がいないことは そうたいしたことではないと思い込みながら過ごした

少年時代

自分に言い聞かせることで 寂しさを封じ込めていた部分は確かにあった



”そんな頃から頑張ってきたんだ……大変なときもあったよね”



実咲は 僕の胸の 奥の 奥の 

その奥を言い当てた


友人の前では どこか繕ってしまうのに 実咲とは自然体でいられる

けれど もうひとつの事実を打ち明ける勇気を まだ持てない

もう少し 実咲と同じ時間を過ごしていたいから……




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