結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】
考古学研究会なんて 女の子はいないと思っていたのに 思わぬ誤算
ひと学年に数人の女の子がいた
「東南アジアの遺跡に興味があるの タイやカンボジアに行ってみたいなぁ」
「タイに行ったことがあるよ 遺跡や寺院が素晴らしかった」
この会話がきっかけだった
新入部員の勧誘をしているとき ビラを配りながら ふともらした
実咲の言葉に いままでそう親しくもなかったのに すっと言葉を返していた
「そうなの? タイに行ったことがあるんだ ねぇもっと話を聞かせて」
目を輝かせて 僕に詰め寄った
女の子に付き合ってくださいと言われたことは 今まで何度かあった
僕の何を見てそう思うのか いつも不思議だった
実咲は それまでの どの女の子とも違っていて
僕の話す 祖父のもとで過ごした夏休みの体験を 面白そうに聞いていた
時折 ”わぁ いいなぁ 私も行きたいなぁ” と 目を輝かせながら……
東南アジアの遺跡について語り合った
他のメンバーは そんな僕らを呆れた顔で見ていたっけ
興味が同じ 話は尽きない
深夜のファミレスでずっと話し込んだ
遠野の祖父から譲り受けた 貴重な本の数々
実咲は それらを嬉しそうに借りていった
共通の話題があること それは人と人を親しくさせる
男同士だったら親友になる
僕らも始めは 共通の趣味を持つ友人だった
いつしか 僕の話をじっと聞く 真剣な眼差しに惹かれ
実咲のボーイッシュな顔が 可愛いと気がついた
「成人式に振袖を着せたいから髪を伸ばしなさいって 親がうるさいの」
肩までしかなかった髪が 背中を伝うようになった頃
大きなウエーブがかかり 栗色の髪が姿を見せた
小さい頃 寝るときは祖母や母の髪を触りながら寝るクセがあった
指先にくるりと巻いて 手の中に髪を握りこんで
ぬいぐるみや毛布が手放せない子供と同じように 僕の場合は髪の毛だった
実咲の髪に触ってみたいと思った
あの柔らかな髪を手に包み込みんだら どんなに心地よいだろうかと……