結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】
いつ見ても美しい人だと思う
初めて会ってから10年以上たっているはずなのに
その頃と なんら変わるところがないのではないかと思うほどだ
僕の母も美人の類だろう 会った人は必ずと言っていいほど
”きれいなお母さんね” と口にするのだから
けれどそれは 外で仕事をするときのためのもの スキなく身だしなみを
整えることで そう思わせるところもある
朋代さんとは そこが大きく違っていた
父に寄り添う姿は 夫婦そろって行動することの少なかった僕の母親に
ないものだった
朋代さんに会うたびに 僕は 彼女の中に理想の妻像 母親像を見ていた
「お兄ちゃん」
後ろから声をかけられ振り向くと すぐに返事が出来ないくらい驚いた
「大きくなったでしょう この子 この半年で10センチ近くも
身長が伸びたのよ」
朋代さんが 葉月の成長ぶりを話す
長身の両親を持ちながら ”葉月は小粒なんだ” と 父がよく言っていたが
目の前に現れた半年振りに合う妹は 少女の顔の中に 少し大人の顔を
のぞかせるほど変化を遂げていた
「デカクなったなぁ」
「デカイはひどーい! 背が伸びたのよ
それを言うならお兄ちゃんだってデッカイじゃない
お父さんよりおっきいんだから」
葉月の変化に一瞬ドキリとしたが 相変わらずの話しぶりに なぜか安心した
「賢吾 久しぶりだな」
低くて良く通る父の声が後ろから聞こえた
この父と僕と似ていると言う人もいるが 母を知っている人は間違いなく
僕は母似だと言う
似ているところがあるとすれば 口元から顎のあたりだろうか
それと 体格も似てきたかもしれない
身長は僕の方が高いが 父の方が肩幅がある分だけ大柄に見える
「それじゃ 夕方までに帰ってくればいいね 今夜はご馳走してよ」
「あぁ 葉月を頼むよ」
別れ際に 父が ”軍資金だ” と いくらか手渡してくれた
多少大目かと思われたが 葉月の服でも買ったら それでは足りないだろうかと
女の子の服の値段など予測もつかない僕は 自分の手持ちも確かめてから
その金を財布にしまい込んだ