結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】

 家族



葉月と歩くのは久しぶりだった

背が伸びたとはいえ 中身は以前の葉月のままで 当然のように僕の手を

握って歩いている


妹とはいえ 小学生と手を繋いで歩くのは気恥ずかしく

こんなところを誰かに見られるのではないか 誰かに会うのではないかと

気が気ではなかったが 僕の心配をよそに葉月が思いがけないことを

聞いてきた
 


「ねぇ お兄ちゃんってモテるの?」


「はぁ? 何で」



葉月の顔を見下ろすと 尖った口がまたしゃべりだした



「だって すれ違う女の人が私をジーッと見て行くんだもん」


「それがなんで僕がモテることになるの 葉月を見てるんだろう」


「私にはわかるの 女の人 私に嫉妬してるのよ」



笑い飛ばしたが 内心 葉月の言葉にドキリとしていた

以前 同じことを実咲から聞いたことがあったのだ



「賢吾といると 私 女の子ににらまれるのよね 

最初はビックリしたり怖かったりだったけど いまでは快感だわ」



実咲のいいところは 物事をプラスに考えるところだ

なんでもない顔をしながら その実 意外と考え込む性質の僕にとって 

彼女の考え方は新鮮で頼もしかった



「モテるかぁ そうだなぁ そうかもな」



とぼけて答えると 葉月の口は ますます尖り 腕にしがみついてきた



「もぉー 油断できないわ」


「油断できないって 誰かと付き合うのに葉月の許可がいるのか」


「えっ? お兄ちゃん 彼女いるの?」


「いるよ……」


「会ってみたい!」



思わず立ち止まり 顔を覗き込むと 葉月が下から睨んでいた


”あぁ いつか紹介するよ” と 曖昧な返事をしたが その機会は

意外なほど早くやってきた




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