結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】
僕の気持ちを逆なでないように 細心の注意を払いながら 当時大人たちが
下した結論を話してくれた
世の中のすべてが常識だけでは片付かないのだと 僕に教えるように……
ふたりのことは職場の誰も気がつかず 仕事ぶりは優秀だったらしい
父は時間を掛けて母と話し合いをし 母も充分納得した上で離婚が成立した
とのことだった
母との離婚後 忙しい合間に朋代さんの実家に通い続け 誠意を尽くしたことが
祖父の心をほぐし 二人を許した祖父が 今度は協力する側にまわり
父たちの力になり続けたこと
大人たちは僕への影響を心配し さまざまな配慮がなされたということだった
今まで知ることのなかった 父と朋代さんの結婚に至るまでの経緯だった
僕に気づかれることなく事が進んでいたのだから 当然といえば当然だが
それらは 今の僕だから理解できることでもあった
「父と朋代さんのことに疑問を持ったのは 本当に偶然でした
葬式や通夜で 参列者や桐原の祖母の言葉を繋ぎ合わせていったら
辻褄が合わなくなって
どうしても確かめたくて 朋代さんのお兄さんの奥さんに聞きました
僕を小さい頃から良く知っている人です」
「驚いただろう……」
「はい……怒りもありました でも 感情的になるだけでは
何も解決しないと思いました
父を良く知っている仲村さんに聞けば 父の気持ちもわかるかと
思ったもので……」
仲村さんの目が優しく笑っている
何かに納得したのか うんうんと何度も頷いた
「私の話から 何かわかってもらえただろうか」
「父の苦しみが見えたような気がします
僕への罪悪感もずっと抱えていたんですね
今日お話が聞けて良かったです」
「私に聞きに来たって事は お父さんには確かめてないんだろう?」
「父に聞いても 上手く話ができないと思ったので」
「うん そうだろうね……これからどうする
お父さんに聞いてみるつもりなのかな?」
「いいえ 今は父に聞くつもりはありません
いつか聞きたいと思う日が来るかもしれませんが 今はまだ……」
「わかった 私も君に会ったことはお父さんに言わずにおこう それでいいね」
「はい……」
仲村さんは カップの中の残りのコーヒーを飲み干すと ソーサーには戻さず
手の中でカップをクルクルと回していた