結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】


夕方帰り着くと ちょうど手伝いの人たちが帰るところだった

その人たちに 父が 「息子です こちらの大学に通ってまして……」 と

僕を紹介すると 

「遠野部長に こんな大きな息子さんがいらっしゃったんですか」 と

期待通りの答えが返ってきた


父の歳にしては大きな子がいると思ったのだろう

ましてや 葉月とは歳が離れているから尚更かもしれない


彼らが僕ら家族のことを詮索しないか 父はどう答えるのか興味があったが

父は ”えぇ そうなんです” と答えるのみで 彼らがその答えに怪訝な

顔をするでもなかった


僕も含め父の家族に見られたことは 僕の心を軽くさせた

父の家族を車に乗せ 食事のできる先に向かう途中 久しぶりの家族らしい

雰囲気に 運転をしながら流れてくる音楽に頭を揺らしてリズムを刻んでいた  


マンションもそうだが 車も学生に不似合いな車だ

東京では必要のない車も 地方では足代わりのため必需品で 誕生日を待って

免許を取り 大学に入学と同時に車を買ってもらった


これも ”小さい車は事故にあったら負けるでしょう” との母の思い込みが

優先され いかにもがっしりしたRV車になった

だが 車は気に入っている




「お前の車 大きいな」



車を目の前にした父が ぼそっとつぶやいたのには 少しばつが悪かった



傍目には 僕も含めて家族に見えるのだろうなと 高揚した気分になってくる

朋代さんを僕の母親にしてしまうのは ちょっと申し訳ないが 若い母親だと

言えなくもない

ステーキハウスの店員が 注文を聞きに席にやってきて お飲み物はと

聞いてきた



「お父さん飲んだら 送るから心配しないで」


「賢吾君ごめんなさいね 私が運転できればいいんだけど 道に不慣れで」



早生まれの僕は 20歳になったばかりだった

誕生日に電話をくれた父が 今度会ったら飲みに行こうと言ってくれて

いたのだった

そのことを気にしてくれたのだろうか 朋代さんが申し訳なさそうに 

また謝った



「気にしないで これからいつでも会えるし 

お父さんには  この次 豪勢におごってもらうから」


「お前なぁ 学生は居酒屋で充分だ」


「居酒屋かぁ まぁいいや 飲めればなんでもいい 

好きなのに飲めない人もいるんだしね……

桐原のおじいさん 体調はどうなの?」



朋代さんのお父さんは 去年の秋の定期健診で異常が見つかり手術を

受けたはずだ

聞くと体調が思わしくなく 再度入院したと言うことだった




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