結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】
数日後 僕は母と食事をするために ビルの地下にあるレストランにいた
夕食をご馳走するからと言われていたのだが 祖父母も一緒かと思っていたら
そうではなく 言われた店に行くと予約席は三人分で 母のほかに誰が同席する
のだろうと 母の友人関係をあれこれ思い浮かべて待っていた
「浩二さん」
「元気だったか いよいよ社会人かぁ 早いねぇ……
東京に帰ってくるかもしれないと 小夜子さんから聞いてたが
希望が叶ったんだ 良かったな」
母と一緒に現れたのは 母の再婚の相手だった男性で かつて義父だった人だ
二人が結婚したとき中学生だった僕は お父さんと呼びかけるのが躊躇われて
ずっと名前で呼んでいた
当時は父親というより 兄のような感覚で接していたし 浩二さんも僕は
弟みたいだったのではと思っている
雑誌の編集者だから 仕事で母とも付き合いがあるのはわかるが 離婚後
三人で会うことなど無かったのに 急にどうしたのだろう
なぜ今夜一緒に食事なのかと問いたかったが 楽しそうに話しかけてくる二人を
眺めるうちに だんだん僕にもわけが見えてきた
今夜の母は 賑やかで 楽しそうで そして とても綺麗に見えた
僕らをタクシーに乗り込ませながら浩二さんは 今度は一緒に飲もうな
と当たり前のように僕との再会を約束し 手を振って見送ってくれた