結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】
あれこれと実咲と鈴ちゃんの質問が繰り出される中 葉月が黙って
ポツンとしているのが気になった
「私 聞いた事ない お母さんにお父さんとの事を聞いても
笑ってごまかして教えてくれないの……」
葉月の言葉に 僕はドキッとした
娘の問いかけに どう答えてよいのか困っている朋代さんの顔が浮かんで
葉月を見ているのが辛かった
実咲も心配そうな顔をこっちに向け 朋代さんが隠しておきたい気持ちを
僕たちなりに察していた
葉月に向かって和音おばさんが話し出した
「葉月ちゃんのお父さんね お母さんにひと目ぼれだったそうよ
すぐに結婚したいってくらいにね」
「そうなの?」
「よく覚えてるわ 結婚を許して欲しいって 何度もおじいちゃんを訪ねて
そのたびに断られて 大変だったのよ」
「おじいちゃん 反対してたの? どうして」
「お父さんがあんまり熱心だから 嫉妬したのね
だって可愛い娘を取られるんだもの 意地になってたのよ」
「それでどうなったの?」
「お父さんの熱意に負けたのね 結婚を許すしかなかったの
お父さんの転勤と同時にお母さんと結婚したのよ」
「すごーい 葉月ちゃんのお父さんってそんな人だったんだ
物静かな方なのに なんかいいわね すっごく素敵な話だわ」
鈴ちゃんの言葉に 葉月は嬉しそうにしていた
和音おばさんが僕の方を見てニッコリと笑いかけ 僕はそれに小さく頷いた
釣り船を降りたあと 墓標になった祖父に会いに行った
手を合わせ 三年間の出来事を報告をする
いつも祖父の心を感じ ずっと見守ってくれているような気がしていた
両親を心配させないように また 祖父に気がかりを残さないようにすることが
一番の供養なんだろうなんて神妙なことを考えた
合掌の手をはずし目を開けると 実咲はまだ手を合わせていた
いつか彼女と一緒に歩いていくよ
そう付け加えて 僕は祖父に別れを告げた
今夜の食卓は 家に残って夕飯の準備をして待っていてくれた
祖母と朋代さんも一緒だ
広間に並べられたテーブルには二人の心づくしの料理と なんとか数匹釣れた
魚も刺身になって乗っていた
一浪して今年目指す大学に合格した大輝の横には 現役で地元の大学に
合格した鈴ちゃんがいて 離れ離れになるね なんてしんみりしている
今年高校3年になる光輝と卓は 東京に興味があるらしく 僕は質問攻めに
あっていた
一番小さかった勇輝は とうに葉月の背を追い越し 高志おじさんに
迫ろうとしていたが 性格は小さい頃そのままで 葉月を意識しながら
箸を突いているのが可笑しかった